HACCP解きほぐし3 一つの食品に絞ってHACCPプランを作る大切さ

食品化学新聞2019年2月14日掲載

浅野行蔵 技術士(生物工学/総合技術監理部門)

 今回は、HACCPの導入において、従業員が手応えを得やすい方法について取り上げる。まず、HACCPプランの作成は、具体的に特定の一つの食品に絞る。そして、自らでHACCPの手順を一つ一つ順番に沿ってやっていくと、登山で山道を登り峠に着くと一挙に展望が開けるように、HACCPが理解できる。自分の足で登ることが大切なのである。端折ると道はかえって遠くなり、なかなか腑に落ちない、わかった気になれないのだ。具体的なトレーニングこそが、HACCPの理解を深め、自社での実施が可能になるアプローチである。

 筆者は、HACCPの研修会で話すこともしばしばある。その際のアンケート意見に次のようなものがあった。「筆者の講演はHACCPそのものを話してくれる、他の多くの講師は制度についての話がほとんどで、 HACCPそのものが何であるのかがわからず歯がゆい思いをしていた」。この意見は、HACCPは具体的にやってみないと理解できない、を意味している。

 HACCPの講師になる人であっても、具体的にいくつもの食品の製造方法について、それぞれでHACCPの12の手順を実施した人が少ないのだと悟った次第である。例えば、加熱する食品はこれとあれと、といくつかの食品をまとめてHACCPらしきものを行うという提案をする人がおられるが、HACCPの導入方法としては結局のところ遠回りとなってしまい、HACCPの心を理解できないままに過ぎてしまう。

 HACCPの手順2および3において書かれている通りに、具体的な一つの食品に絞ることである。一つとすることで、HACCPチームの全員が同じ食品について思いを巡らし、話のずれがなく意識が集中する。内容物が全く同じ食品であっても容量が異なれば、別のHACCPプランを立てる必要があるのだ。現に、200mlのフルーツジュースと500mlの商品を同じ製造法で作り、クレームの山を作ってしまったところもある。

 たくさんの種類の食品を作っておられるであろう。しかし、迷うことなく一つの食品に絞ってプラン作りを始めよう。すべての食品を一つ一つプランを作るのは気が遠くなると思われるかもしれない。HACCP導入時は、一つの食品のHACCPを作るのに3日くらいかかる。これくらいの時間をかけて十分な討論を繰り返し、あれこれと調査をしてプランを作ることこそが、HACCPを理解するには必要なことなのである。たとえ何種類の食があっても、まずは一つから。HACCPがわかってきたら時間は短縮されるし、HACCPプランの作成を 繰り返すと製造の流れに対する見方がどんどん進化していく。

 単にHACCPプランを表にすることが目的ではないことに気がつくであろう。チームメンバーとなった従業員の方々は、特定の食品についてあらゆる視点から安全に製造するための情報、知識、条件などなどを具体的に論議したのだから、チーム以外の人たちにも自信を持って説明できる状態になる。

 食品工場において外部査察はしばしばある。例えば、保健所の指摘があったのでここの配置を改良した、というような話を聞くことがある。筆者が、なぜ改良したのか?と尋ねると、「指摘されたから」という答えしか返ってこないことが多い。貴社ではいかがだろうか?このように、指摘を鵜呑みにされているのではないであろうか? 

 HACCP導入後の対応は次のように変わってくるはずである。外部監査員からの指摘された Hazardに対して、自社で作成した6項目の危害分析表を見せながら、自社で決定した「心配事への対応方法」を説明することができる。監査員の指摘が、自社作成の6項目の危害分析表になかったなら、指摘をありがたくいただき、自社のHACCP委員会にかけてどのような措置を取るかを決める、という返事になる。その監査員には、自社で作成した6項目の危害分析表の他の部分にも自社議論で出てこなかった「心配事」を指摘してもらおう。あらゆる機会を使ってHACCPプラン へ持ち込む活動をすることになる。外部の知恵も使って、ということだ。

 一方、記録ばかり話題にする監査員については、ほどよく表面的な対応で済ましておくのがよろしいと思う。記録の意義については、別の回で紹介する。

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