イネ科植物

食品化学新聞2018年8月30日掲載

平井輝生  技術士(農業及び生物工学)平井技術士事務所

 イネ科植物(昔の呼び名は禾本科)は700属8000種あるという。地球上で最も繁栄している植物ではないだろうか。この仲間にはイネのように一年草の草本類が多いが、竹のように茎の中央に空洞を持つ木本類の多年性植物もある。

 イネ科植物には人が主食にしているイネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、コウリャンなどの穀類やタケの芽(タケノコ)、サトウキビ、マイロ、ハトムギなどのほか、牧草として利用しているチモシー、オーチャードグラス、トールフェスク、ペレニアルライグラス、ソルガムなどもイネ科である。この他山野に自生するイネ科植物は多く我々の生活圏で雑草と呼ばれている草本類の多くはイネ科植物である。

 植物学者の話によると、イネのようにライフサイクルが一年で、発芽してから数カ月で結実して種子の中に遺伝子を残して生体は枯れる、という生き方は生育している場所の環境の変化に対応して確実に子孫を残せるので、植物の歴史の中では後生的なものと考えられる、という。例えば、砂漠のような厳しい乾燥地帯でも、種子の形で地中で高温と乾燥に耐え、雨期に発芽して乾季には結実して落下、飛散すれば確実に子孫を残せる。種の保存という立場から考えると巧妙な生き方である。イネ科植物が地上で繁栄したのはこの戦略が地球環境に適していたからであろう。また、受粉も昆虫に依存しない風媒花に進化したのが生息範囲を広げたのであろう。智慧に長けた植物とも云えよう。

 人はイネ科植物の種子を主食にすることによって、食料の保存に成功し、高栄養の食物を摂取することが出来た。人が主食にしたイネ科植物の種子は、硬い殻で包まれており、鳥などが嚥下しても簡単には消化できないようになっているが、人は脱穀、粉砕、蒸煮などの調理によって消化しやすい形を考え出し、この智慧が文明を生み、地球上で最も繁栄した哺乳類となることが出来た。見方を変えればイネ科植物が人類の文明を生む基になった、ともいえる。

 イネ科植物を食料にしている動物は人だけでない。草食動物やイナゴ・バッタのような昆虫などその種類は多い。ゾウが草を鼻に巻き付けて口に運ぶ姿をテレビで見ると逞しい感じがする。ライオンなどを寄せ付けない大きな体に進化することが出来たのは、イネ科植物を腹一杯食べることが出来たからである。これらの動物種の繁栄もイネ科植物の繁栄の上に立脚したものと言えよう。われわれ動物は植物なしでは生きられない。エネルギー源となる食物だけではない。二酸化炭素を吸収し酸素を輩出して、空気を浄化してくれているのも植物である。このような動植物間の関係を考える時、我々はもっと植物の存在意義とその重要性を考え、植物が繁茂できる環境の保全に努めなければならないのではないだろうか。

 人類が絶滅したらどうなるか?こんな課題の論議は二十世紀からあり、子供同士でも語り合うことがあった。ある人は、ビルや高速道路のように人が築いたものは簡単に壊されて、まず植物が繁茂する、と言った。よく茂った森林の中から発見された古代の遺跡の姿を見ると、この予測は正しいように思える。中には「そうなると地球環境は良くなるよ」という人もいるが、人類絶滅後ではその環境を享受することが出来ない。環境破壊の主な原因が人間同士の争いから生じていることを考えると、人による環境破壊は人類の絶滅を招来する要因にもなる可能性がある。名もない雑草も地球環境の維持には、何らかの貢献をしている生物であることも忘れてはいけない。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております。