「成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開拓とそのポイント」②  初めて世に出た商品

食品と科学2013年12月号掲載

鈴木修武    技術士(農業部門) 鈴木修武技術士事務所 

成功事例  簡易型酸価測定器

 昭和50年代に油脂を使った食品が急激に増加することにより油脂の酸化、加熱劣化について関心が高くなった。色々な法的な基準もでき、昭和52年厚生省菓子指導要領、昭和54年、厚生省、弁当及びそうざいの衛生規範、昭和49年各都道府県の地域食品認証規則(ミニJAS)などがある。それぞれの数値を表1に示した。

 弁当及びそうざいの衛生規範の内容(油脂関係のみ)は、油脂の取扱いとして

①油脂は特に直射日光及び高温多湿を避けて保存すること。さらに、冷暗所に保存することが望ましい。

②油脂はふたのある容器に入れて密閉するなど空気との接触を少くなくして保存すること

③油脂(ただし、再処理のものを除く。)は次のア及びイに適合するものを原料として使用すること。

 ア 酸価      1以下(ただし、ごま油を除く。)
 イ 過酸化物価  10以下

油脂による揚げ処理では

①製品の特性に応じて適当な量の油脂を用い、適当な温度および時間をもって揚げ処理を行い、不必要な加熱をさけること。特に200°C以上での揚げは行わないことが望ましい。

②揚げ処理においては、油脂中の揚げかすなどの浮遊物や沈殿物を除きながら、適当な量の7%以上が減った場合には、その分の油脂を新たに補充すること。

③揚げ処理中の油脂が、発煙、いわゆるカニ泡、粘性などの状態から判断して、つぎのア~ウに

該当するにいたり、明らかに劣化が認められる場合には、そのすべてを新しい油脂と交換すること。 
    ア 発煙点が170°C未満となったもの。
    イ 酸価が2.5を越えたもの。
    ウ カルボニル価が50を越えたもの。

 その中で酸価は2.5を超えた油は交換することになっている。しかし加熱劣化を知る方法として酸価、粘度など多くの数値管理があり、その数値の難易度を図1に示した。これらはいずれも測定員、機械器具や設備が必要である。元の会社では図2のような滴定器具や溶剤などのセットを発売していたが、より生産現場の従業員でもより簡単に測定できる器具が必要であった。

図1 加熱劣化の数値管理の難易度

図2 酸価測定セット
ホーネン カタログより

 松下京大教授と柴田科学と産学共同開発した商品(図3後継器シンプルパック参照、当初はガラス容器)で、開発の経過を述べよう。

図3 簡易型酸価測定器
(後継機シンプルパック)

この開発には技術的な色々な壁があった。

適量のアルカリ、指示薬、水と溶剤を容器に入れ、加熱劣化した油を図3のようにして測定する。商品は、酸価1.2.3と三種類(現在2.5追加で4種類)あった。

 ひとつの壁は、貯蔵中に添加したアルカリが、アルカリ消費物質により貯蔵中に力価が低下する。多分空気中の炭酸ガス、溶液中の酸性物質、容器のガラス、容器の内蓋などが影響したと思われる。酸価の違いによって低下が違ったがそれぞれの低下にあわせて補正し、アルカリを加算して添加した。また、溶剤とアルカリで、内蓋が溶解するのはシリコンゴムで解決した。

 二つ目は、貯蔵すると容器の壁に結晶が出てきて測定値に誤差が出る。酸価1.2.3により異なった。じっくり観察すれば、酸価が高い商品と結晶が多かった。酸価が高いとアルカリの量が多いので当然である。水の量を増やせば解決したが、水と油で乳化して測定時間が長くなったので、最低限の水を求めて解決した。

 三つ目は、教授からの処方の溶剤はヘキサンであった。販売員と研究所の事務員にヘキサンを説明したが、理解してもらえなかった。ヘキサンは植物油を抽出する溶剤で、製油メーカーの販売員であれば知っていることを予想したがダメであった。化学知識の無い惣菜現場では使えないと判断し、反応と分離が悪いが、エタノールにした。エタノールは説明に困れば、酒と言えば納得すると考えた。このエタノール(酒)に代えてから説明に苦労することはなかった。商品が売れるのは意外にこんな所かもしれない。

 このヒントは、ある学会の懇親会で大手化学メーカーと知人の会話から「食品はおそろしい感情の世界であった」と呼び名にも気を配れば違った方向があったのではないかと残念がっていた。

 当時、石油のパラフィンを微生物により発酵しタンパク質を製造する研究開発が食品や大手化学会社の開発テーマであった。通称石油タンパク質の名前で呼んでおり、テレビで「タンパク質が足りないよ」と言うコマーシャルもあって、国民も非常に関心があった。しかし、主婦連などの反対団体から石油タンパク質イコール石油を食べされるのかと大反対があった。また、ベンツピレンと言う発がん物質も検出されてさらに大きなダメージを食らった。シングルセルプロティン(SCP)に名前を替えたが時すでに遅くブームが去った。
この強烈な印象で、成分にみんなもわかり納得することが大切であると思ってエタノール(お酒)にした。

 開発した酸価測定器は、こんな場面で必要とされていた。標準的な惣菜店舗で、てんぷら類とフライ類を別々のフライヤーで、一日当たりそれぞれ5~10Kg、15~20Kg前後揚げている。(一日・1点 以下同じ)揚げ重量とさし油は、図4に示す様にてんぷら類とフライ類では違う。

食用植物油と品質保持より
図4 てんぷら・フライ類の揚げ重量とさし油
▲ てんぷら類  ●フライ類

 

 さし油の差はてんぷら類の油分が20~30%ぐらいで、フライヤーからより多くの油を持ち出すので多くなる。一方フライ類の油分は5~10%ぐらい、揚げ重量の割にあまり持ち出さないので少なくなる。

 加熱劣化の指標になる酸価は図5に示すように異なり、てんぷら類の油はこのままの状態で進み、フライ類の油はあと少しで廃油にしなければならない。この廃油の判定に酸価の測定が必要となる。

図5 てんぷら・フライ類の揚げ重量と酸価
▲ てんぷら類  ●フライ類

 

 図4に見られる様に、てんぷら類は揚げ重量がフライ類の半分でもさし油が同じであり、常に加熱劣化していない新油が供給されているためである。一般的に新油回転率が、時間当たり張り込み量に対して10%以上あれば酸価が上昇しない。また新油回転率がフライ類の様に悪ければ、加水分解とともに加熱重合や分解が起こり、酸価上昇とともに色度も上昇することが避けられない。

 酸価を測定すれば加熱劣化をわかる事例は小、中学校(学校給食)各2校の加熱方法、張り込み量など同じ形式のフライヤーを使用した例である。一日の揚げ重量は、約40~110Kgを幅があるが総てのデータを同一図に挿入しても図6、図7に示すように加熱劣化(酸価)と加熱時間、加熱劣化(酸価)と揚げ重量とも正の相関関係にある。

食用油の使い方 より
図6 酸価と加熱時間

食用油の使い方 より
図7 酸価と加熱重量

 

また、色々な指標との関係を図8に示した。

図8-1 加熱劣化と各種指標

図8-2 加熱劣化と各種指標

図8-3 加熱劣化と各種指標

 

 

 加熱劣化の指標である酸価は、揚げ重量、加熱時間、カルボニル価などと良く相関し、酸価を把握すれば、大方フライヤーの状態が判断できる
開発当時、油揚げ、惣菜、外食、産業給食などの加熱劣化した油を現場で測定する機器がなかった。保健所の職員が現場で痛んだ油を採取し、保健所に戻り分析し、結果を伝えて指導していた。この商品は、現場で測定と指導が同時に出来たので非常に喜ばれた。現在ではこの商品以外に試験紙も売られている。

 

2.POV試験紙(過酸化物価試験紙)

 揚げ油の過酸化物価も10以下を使用することになっており、上記と同じ時期に開発した商品を図9に示した。

柴田科学カタログより
図9 POV測定試験紙

 筆者が開発した中で一番苦労した。動植物油脂は空気中の酸素と仲良くなって嫌な臭いや色が薄くなるなどの変化を専門用語で油が酸化したと言う。この酸化を示す指標が過酸化物価である。この測定は測定試薬と装置が必要で一般の人達は測定できなかった。簡単で、手軽に測定出来る試験紙が必要であった。同じく京都大学との共同研究であったが、この開発には非常に苦労し、半年の試行錯誤を繰り返した。過酸化物価の測定は、油脂の過酸化物価が多くなると油のパーオキシドが出来て、ヨウ化カリウムを分離し、ヨウ素を遊離する。このヨウ素を澱粉で発色させ、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する。試験紙の原理は、あらかじめヨウ素カリウムと澱粉を含浸させて、油の中に漬けると油のパーオシドにより、ヨウ素を遊離し澱粉と反応し測定出来る。しかし、ヨウ素カリウムは空気中に保存するとヨウ素が遊離し澱粉と反応し保存性が1週間程度しかなかった。その防止方法としビタミンCを添加すれば倍の保存性が高められるが、商品化には、1~2年の保存性が必要であった。酸化還元剤としてエルソルビン酸、EDTA、BHA、BHTなど、漂白剤として亜塩素酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどを手当たり次第実験したが成功しなかった。アイデアがある内は実験したが、なくなると苦しかった。発色度を測定する方法は、色差計やデンシトメーターなどの測定器があるが、予算がなく既存の分光光度計を改良し、データを詳細に取ったが解決方法がなかった。会社に出勤してもやることがなく、机に座りボーとしていると女子研究員が何しているのと言い、苦し紛れに「考えている仕事をしている」と弁解をした。ある日、原点に帰ろうと思い、過酸化物価を測定する試薬を思い起こし、チオ硫酸ナトリウムになった。この試薬を加減することで制御でき、0~10の試験紙と0~50まで測定する過酸化物価試験紙を完成させ特許取得もした。ヒントになる青い鳥は、いつも測定している身近な試薬であった。この商品は、30年以上経過しても販売されているロング商品である。

 最近、この試験紙でこんな経験をした。ある揚げ製品の会社より、技術指導の要請があった。現場に行き指導したが、返品された塩の味付けの製品だけ酸化臭がし、他の製品は異常なかった。製造者、品質管理者、社員は酸化臭の判定はできなかった。そこでこの試料をビニール袋に10g(油分約25%とし含油量約2.5g)取り、手でできる限り粉砕する。できればミキサーなどで粉砕すればさらに良い。ビニール袋に約20gの油を添加し良くもんで酸化した油を抽出した。POV試験紙にて測定した結果、酸化している製品の油は過酸化物価5前後の紫色に発色し、他の製品は発色がなかった。酸化された製品は油で10倍希釈されているので、過酸化物価50前後と思われる。

 筆者の経験では、酸化に敏感な人は過酸化物価10前後で酸化を感じ、50前後でほとんどの人が酸化臭を感じると思われる。(厚生省菓子指導要項では過酸化物価が50を越えないことの要項がある)

 揚げた製品で水分が少ない製品は、溶剤を使い抽出するが、溶剤の代わりに酸化の低いか酸化していない油を使って測定できると思われる。

 商品開発は恋をすることと同じで、相手(顧客)の立場で考えて作り、ヒントは身近にあるのではないかと思う。また一人一人の開発者が持ち場で頑張れば、日本はさらに世界に羽ばたけるのではないでしょうか。以上

参考文献 
鈴木修武:新商品開発の成功例と失敗例 VOL.49 NO.9 p82 食品工業(2006)  
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)
鈴木修武:食用植物油と品質保持 

食品と科学社より許可を得て掲載しております。