楽しい「珍菌賞」と冬虫夏草のこと

食品化学新聞2017年7月6日掲載

木幡 守  技術士(生物工学部門)木幡技術士事務所

朝日新聞に「珍菌賞」という記事があった(2016年9月)。面白そうなのでネットで調べてみた。

 この賞は 日本菌学会・菌学若手の有志が、キノコやカビなどの菌類が持つ珍奇な生態や形態の魅力を社会に知ってもらうため、3年前に企画・設立したものである。

 ユーモア性のある企画だが、選考対象は過去に学術論文や学会で発表されたものに限定していて、この点はイグノーベル賞の企画と同じである。珍しい性質や形態の菌類を公募し、推薦された真菌・偽菌類から投票で選考する。授賞式では第1位の受賞菌に代ってその研究者が賞状を受けるという。

   菌学若手の会 日本珍菌賞 https://sites.google.com/site/youngmycologists/award

   https://www.huffingtonpost.jp/takashi-shirouzu/-_11_b_3432753.html

 画像で見せられないのは残念である。受賞菌について、菌学若手の会の発表を引用して面白さを紹介したい。

受賞菌

 第1回(2013年)の受賞は「トビムシの精子を食らう謎菌:エニグマトマイセス・アンプリポルス」。トビムシは数ミリメートルの小さな昆虫で、その精包に寄生して精子を食べる菌とのこと。エニグマトマイセスは「謎に満ちた菌」の意味という。

 

 しかし筆者には、第3位の「熊楠を魅了した異形の珍菌:タケリタケ」の方が面白い。外見が男性のシンボルに似た珍奇なキノコで、テングタケ属のキノコに別の菌が寄生しているとのこと。

 

第2回の受賞は「甘いキノコ:マチロマイセス・テルフェゾイデス(和名イモタケ似)」。白トリュフとかハニートリュフといわれるが、高級食材のトリュフとは分類的に別物。地下生菌の一種で形は不格好なジャガイモというべきか。特徴はほのかな蜂蜜の味わいを持つ風味で、甘さはサッカリンに匹敵するという。ヨーロッパではニセアカシア林などから採取され、ハンガリーではスイーツの材料として利用されている。日本ではアスパラガス畑から見出されている。この菌は実用的にも面白そうだ。第2位はタランチュラを宿主とする冬虫夏草:コルディセプス・イグノータ(和名なし)」であった。

 

 第3回の受賞は「花に擬態する菌:モニリア・バクシニ-コリンボシ(和名なし)」。ブルーベリーの葉に感染すると芳香を発して蜜を生産し、さらに紫外線を反射する「蜜標」で昆虫を誘導する。その胞子も花粉を形態的・化学的に模倣している。この菌の生態はアメリカの菌類学者と昆虫学者の夫婦により解明されたが、賞状と副賞の授与は届け先不明で預かりとなった。

 

 第4回(2016年)の受賞は「菌界のハリセンボン:シャクトリムシハリセンボン」。蛾の幼虫に寄生する菌の一種で、体から魚のハリセンボンのような多くの針が生える形状が特徴の冬虫夏草である。重ねていうが画像で示せないのは残念である。

 

冬虫夏虫について

 このように菌類の世界には珍奇な生態や形態を示すものが見出される。ところで、珍菌賞の受賞は冬虫夏草に多い。冬虫夏草は蛾の幼虫に寄生するキノコの一種である。有名なのは1990年代、中国の馬軍団に所属していた女子陸上選手が驚異的な記録を重ねた際、その秘密は「冬虫夏草入り飲料」であったと報道されたことである。結局、この秘密はドーピング疑惑がもたれ否定されたとのことであるが、今でもプロスポーツ選手を中心に広く利用されているそうだ。

 冬虫夏草は世界で約300種が報告され、せみ、芋虫、トンボ、蚕のサナギ、蜂等の昆虫に寄生するが、中国ではチベットなど原産のオオコウモリガの幼虫に寄生するコルディセプス・シネンシス菌のみを「冬虫夏草」と呼び、他の類似品は「虫草」として区別しているという。日本ではいろいろな昆虫に寄生する菌も冬虫夏草としているそうだ。

 冬虫夏草は中国では生薬として健肺、強壮効果、抗ガン効果があるとされ、健康食品用のエキス抽出とか、薬膳料理・中華料理などの素材として利用される。本物の冬虫夏草は、超高価で1Kg 100万円もするとか。

 冬虫夏草は日本では中国からの輸入に依存するが、本菌の人工培養方法がネットで見出される。ひとつは昆虫とは無関係に本菌の菌糸体を人工培養する方法で、これでは「冬虫」にも該当しない。別の方法は生きた蛾の幼虫(サナギ)に菌を植え付けて人工培養する方法であり、これは一応「冬虫」といえよう。その宣伝文には、「冬虫夏草菌が昆虫に寄生すると、昆虫はそれに対して免疫物質を分泌する。冬虫夏草の薬効は、菌が昆虫から吸収した免疫物質にあると考えられている」と書かれているが、これについては筆者は評価できない。
 

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