太歳という不思議な生き物

食品化学新聞2017年11月2日掲載

木幡 守  技術士(生物工学部門)木幡技術士事務所

世界不思議発見テレビ

 TBSテレビ番組「世界不思議発見」で、不老不死の妙薬として太歳という「生き物」が紹介されていた(2017年1月)。画面では、黄褐色で不定の20~30cmの肉状の塊。水槽で「飼育」していたがゼリー状であった。

 中国科学院華南植物園の植物学者は、「この物体は単細胞動物の性質と藻類のような植物的性質を併せ持つ粘菌の仲間」と述べていた。

粘菌とは

 ここで「粘菌」という不思議な生物に触れてみたい。
粘菌は、明治から昭和初期にかけて、天才でかつ奇人といわれた世界的な学者:南方熊楠(博物学、菌類学、民俗学)が研究した対象である。昭和天皇にご進講の際、マッチ箱に入れた粘菌「標本」を献上したことは有名である。

 粘菌は分類群名では変形菌といわれる。変形菌は、変形体と呼ばれる栄養体がアメーバ運動により移動するという動物的性質と、動かずキノコの様な小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するといった植物的性質を併せ持つ生物である。変形菌は細胞性粘菌と区別するために真性(真正)粘菌とも呼ばれ、その運動性から粘菌アメーバとも呼ばれる。実際にはごくありふれた生物で地中に存在しその移動速度は、時速数cm程度とか。

 変形体は裸の原形質の塊で薄く広がり、微生物などを捕食する。大きさは10cm程度のものが多いが、中には1メートルを超えるものある。

 変形菌モジホコリは、乾燥したオートミール粒だけで容易に培養できる。子実体の大部分は数mmのサイズであり、約400種の変形菌が報告されている。                             

不老不死の薬、太歳

 中国では土中から柔らかい肉塊のような生物「太歳(タイサイ)」が発見されることがある。太歳は「自己治癒能力」と「際限ない成長力」の象徴とされ、薬効成分が高いというキノコ「霊芝」に因んで肉霊芝とも呼ばれ、歴史書「史記」には秦の始皇帝が不老不死の薬として求めたとの記述がある。

 報告例には、陝西省で地下から25kgの巨大な肉の塊として(1992年)、広東省で川辺の泥中から30㎝四方程度で重さ2㎏の謎の物体として(2006年)、陝西省で発見当初は白い球状の塊で2日後には茶色く扁平な形に変化した重さ17kgの生き物として(2008年)がある。

太歳の正体は?

 太歳の正確な正体は不明である。太歳は、細菌・放線菌・真菌の3種類からなる珍しい複合体と説明している専門家もいるが、巨大化した変形菌(粘菌)であるとする仮説が有力という。
以上はテレビとネット情報であるが、筆者の知人である分類学者に太歳について意見を求めてみた。

 太歳は、楕円球状で長い突起がある。直径:20~30cm。重さ:2-70 kg。プルプルしたゼリー状/ゴムの様で弾力があるという。一方、変形菌の変形体は、平板状で薄く広く広がる(厚さ1mm程)。脆弱な構造で崩れやすい。一般に子実体は径1mmくらいで弾力はない。変形体は主に腐木・土壌中で生育するが、子実体は地中で作らず腐木・枯葉の表面で形成される。巨大アメーバ細胞内に細菌を取り込んで消化して栄養とする。細菌を摂取するには広い体表面積が必要で、塊状にはならないと思われる。

 以上により、知人は「太歳は変形菌/変形体ではない。トリュフのような地中にキノコをつくる地下生菌の仲間ではなかろうか」と推定する。遺伝子塩基配列に基づいた系統解析をやればすぐ分かるはず。

 それにしても、太歳は超珍菌といえよう。

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