官能評価は高度な専門技術

食品化学新聞2019年4月11日掲載

跡部昌彦     跡部技術士事務所(食品開発コンサルタント)

技術士(農業・総合技術監理部門) 

 食品メーカーの研究所に勤務していたとき、数年間にわたって「おいしさの評価」を担当してきた。自社商品や開発途上の試作品を、競合する他社商品などと比べながら、自社商品などのおいしさの特徴がどこにあるのか、改善すべき点はどこなのかなどを評価するという業務である。

 分析型官能評価(五感を使って、味や香りなどの差を評価する手法)や機器分析(ガスクロマトグラフィーでの香気成分分析、高速液体クロマトグラフィーでの糖やアミノ酸分析など)を用いての評価である。これらのデータの解析結果から、各試料の特徴や試料間の差はわかるが(P試料は「青っぽい香りが強い」、「Q試料は△△成分が多いなど」)、それがよい方向なのか悪い方向なのかはわからない。

 そこで、嗜好型官能評価(五感を使って、おいしい・おいしくないといった嗜好を評価する手法)を用い、そのデータも加えて解析することで、「P試料は青っぽい香りが強いからおいしくない」、「Q試料は△△成分が多いからおいしい」というように結論付けられる。(実際は、こんな単純なものではないが…)

 官能評価は機器分析と比べて、①測定機器間の差(個人差)が大きい、②再現性が低い、③環境の影響を受けやすい、④疲労と順応が大きい、という短所がある一方、⑤実施しやすい(簡便・迅速で機器が不要)、⑥嗜好領域も評価可能、⑦総合判定も優れている、という点が長所になっていると言われている。一般的としては間違ってないが、官能評価を勉強していくと、実践面では違うのではないかと考えている。

 上述の①②③の短所についてである。分析型官能評価においては、正しい知識をもとに適切な手法で実施すれば、妥当性・信頼性・客観性のあるデータを得ることができる。具体的には官能評価の目的を明らかにして、それに沿った官能評価手法(三点識別試験法、順位法、特性プロファイル法など)を選択し、必要な試料を用意する。その試料は評価したい項目以外の条件を揃えておかなければならない(試料間の味や香りの違いを評価する場合、各試料の色や外観、温度、容器、喫食方法などを揃える)。

 そして、その味や香りなどを表現し識別できるヒトを訓練して選抜し、評価する日時への配慮(空腹でも満腹でもない時間帯が望ましいなど)、評価する場所への配慮(官能評価室など、評価に集中できる場所で実施する)を行った上で、パネル(官能評価者)として参加してもらう。特性プロファイル法では、試料を識別するのに相応しい用語(「青っぽい香り」、「酸味」など)を選定し、その用語の意味がパネルの共通認識になっている必要がある。

 パネルへの試料の提示にあたっては、順序効果、対比効果、位置効果、記号効果、期待効果などの心理的な影響を排除するようにしなければならない。詳しくは官能評価の書籍などで勉強していただきたいが、以上に注意して実施し、得られたデータが正しく統計解析された分析型官能評価では、①②③の短所の克服が可能である。

 しかし、④の疲労と順応は克服できない。パネルは神経を集中して評価にあたるので、1回の官能時間は15分程度、試料数では4~6種類が限度である。これ以上続けるとパネルの評価能力が低下し、信頼あるデータがとれなくなる。

 続いて、長所と言われる⑤⑥⑦であるが、実践面では、私はこれらを分析型官能評価の長所とは思っていない。そんな簡単に実施ができ、総合判定もできるものはないからである。確かに、訓練・選抜された優秀なパネルが確保されて、官能評価室が整備され、官能評価や統計解析の手法が身についていて、特性プロファイル法であれば評価用語がパネルに共有されている状態になっているなら、簡便・迅速に実施することできる。しかし、その準備・確立には長い期間が必要であり、経験や実績がないところから分析型官能評価を始めようとすると、特にパネルの育成・選抜に時間が必要で、1年以上はかかるのである。

 私は官能評価を「高度な専門技術」と思っている。その技術を使って生み出される官能評価データが正解であり、それを補うのが機器分析だと考えている。

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 専門は食品の研究開発で、商品開発、食品加工技術、食品素材開発、食品機能研究、おいしさ評価、設計品質管理、研究開発マネジメントなど。

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