食品冷凍・解凍における品質変化とプロセス管理

河野 晋治氏
株式会社 前川製作所 技術研究所 
食品生物技術グループリーダー 

 近年、冷凍食品の品質が格段に向上し、高品質凍結を象徴するキーワードとして「氷結晶」について語られてきた。しかし、従来の通説と現実は異なっていることが、新しい分析法、観察法の開発によってわかってきた。本質的な冷凍食品の品質変化が十分に理解されてはいなかったと見ている。

本講演では、食品を凍結・保存する際に生じる品質変化について、氷結晶形成や水分移動という観点からも研究を進めました。非破壊計測技術を利用した凍結・解凍におけるプロセス管理について、研究事例を交えながら将来像について概説します。

1)氷結ということ食品の状態とは? 
 まず、定義や基礎知識から認識を合わせていきます。食品衛生法の法律としての「冷凍」は、-15度以下が基準だが、Codex基準では、-18度となっており、日本でも冷凍食品は一般的にマイナス18度以下で保存流通することとハーモナイズしている。
2)冷凍食品は、凍結 → 保存 → 解凍 の経過をたどる。
 それぞれの状況でなにが起こっているか?を知ることは重要だ。昔から緩慢凍結は悪く、急速凍結は良いとされてきた。その理由は、緩慢では大きな氷結晶ができて、食品組織を壊してしまうからだとされてきた。
 私は、それに疑問を持ったのだが、いかにして観察するのかの方法論の開発から入らなくてはなかった。
3)電子顕微鏡の観察法の改良
 従来の電子顕微鏡では、サンプルを乾燥させて高真空下で観察するわけで見ているのは、「氷のあったはずの空洞」ということになる。そこで、入手可能になった凍結材料でも接着性を失わない低温粘着フィルムを使うと迅速かつ容易な氷結品計測用の標本作製が作れることを見いだして、観察法として確立することができた。
 フィルムに貼着させた凍結材料を凍結のまま薄切して、薄切片作り、次に有機溶剤に浸漬して、染色する。氷は染色されなかった部分として観察する方法だ。
 これによって標本作製時間が20-30分に短縮し、かつ冷凍時からすぐ観察できるので変化が少ない、つまりより冷凍時に近いと考えられる情況を観察することができるようになった。これによって凍結プロセスの操作条件により食品材料内に形成される氷結晶のサイズと形状を精度良く短時間に測定出来るようになった。
4)「氷結晶」のサイズだけでは、冷凍食品の品質は評価できない
 氷結晶に関しては、実はみなさんイメージで話している。そのイメージは科学的には定量性がない。
 凍結の際に化学反応が起こっている。冷凍の始まりで、まだ凍っていない「濃縮層」で起こっている。例えば、濃縮層で、凍結の遅い物質の濃度が上がることによって、その物質、あるいはその一部の凝集が起こってしまうと、解凍しても元に戻らなくなる。
5)急速凍結の迷信
 Codex「急速凍結」の規格は、30分以内に冷凍することで、氷結晶が最小になるといわれている。しかし、30分の意味合いは、じつは明確ではない。一般論では、急速冷凍が氷結晶少なく品質良いとされている、が、本当にそうなのか疑問を持って研究を進めた。
 研究を進めて行くと、氷結晶サイズが品質に影響する食品と、じつはあまり影響していない食品があることがわかってきた。
 めばちマグロの凍結を比べると、緩慢凍結と急速凍結では、電子顕微鏡で見ると、画像は大きく違っている。前者は氷が明らかに大きい。ところが、そんなに違っていても丁寧な解凍を行うとどちらも同じように戻すことができ、食べてみての差がわからない。
 マグロの船上凍結を考えてみると、マグロはでかいので、釣り上げてすぐにマイナス50度の冷凍庫に入れても中心部が凍るのには24時間かかっているのが現実だ。つまり急速でなく明らかに緩慢凍結だ。そこで緩慢凍結の部分を詳しく見てみると、魚の鮮度によって凍結の状況が違う。あるいは産卵後の魚も細胞内凍結を起こしにくい。対象の食品によって結果が異なるのだ
 冷凍の技術に関しては、水産分野ですすんでいる。いろいろのファイターが品質に影響するが、凍結速度が一番大きいので、話題になっているので、これだけではないことを明らかにした。 
6)氷結晶の大きさを正確に測定して見えてきた
 種々の食品において氷結晶の形態計測法を基盤とするデータ解析法を繰り返し、品質評価法へとつなげていった。消費者の食嗜好を満足させる実用操作法の開発をめざして、最適な凍結プロセスや保存温度条件の研究を行った。
 サーモンフィレにおいて、凍結温度に依存して肉色が白く変色する現象は,一時的な色彩消失なのだが、この現象は長期保存により生じる冷凍ヤケやプロテオリシス現象とも似て市場では好まれない。この現象を調べたところ氷結晶の微細構造とその分布によって起こることもわかった。
7)冷凍保存温度の話
 Codexの規定-18度の根拠は、1950年代にアメリカで冷凍が議論された際に華氏ゼロ(F)で決められたにすぎない。マイナス18度では、水分子がまだまだ動いているし、水分が昇華してしまう。乾燥して油が酸化して「凍結焼け」が起こる。
 魚のK値との関係に注目するとマイナス30度で保存すると、K値は変化ないが、酸化は進んで数日で臭くなる。
8)ゲル食品:ご飯の中の氷結晶を観察する
 ご飯をマイナス5度での保存では、氷結晶はだんだん集まってきて大きな氷結晶となる。こお場合、保存温度は、低ければ低いほうがいいと、論理的には言える。
9)冷凍とは:品質とコストのトレードオフ
 加熱操作では基準条件を超えると品質が悪くなってしまうが、凍結ではそうはならないため、過剰に凍結しがちである。温度データの収集によって、凍結最適化のための運用・運転条件の設定、管理システムの構築が可能となる。
10)食品凍結・解凍へのプロセス管理への提案
 冷凍、解凍をプロセスで管理するとは、リアルタイムで情況を把握すること。そのためには、冷凍工程のプロセス中でどのように冷凍情況を測定するのか?
 従来の凍結プロセスの温度管理は、間接管理といえる。食品の内部の状況をリアルタイムで計測する技術が必要だ。
 乗せると食品の中心温の測定を可能にしたセンサーを作った。 
 マイクロ波、ミリ波の領域の電波を出して食品の中心温度計を測定する 
11)解凍を測定するセンサーも開発した 
 水の層は、近赤外で測定する。水と氷の近赤外波長の吸収の差がある波長がある。そこを利用している。発した光が返ってくるところを計測している。マイクロ波共振現象を活用した低コスト非破壊凍結モニターだ。食品の中まで解凍できているかを確認できるようになった。
12)冷凍中に進む酸化
 キンメダイをマイナス30度で冷凍保存しても酸素が0.2%でもあると酸化してしまう。冷凍後の真空包装ではだめで、包装する前に完全に置換しておいておくと酸化が止まるという実験結果もある。
13)凍結曲線 
 50年前から議論しているが、結論はまだ出ていない。磁場と急速凍結を組み合わせて、過冷却温度を下げて、すぐ凍結にもっていくというメーカーもある。CASというシステム。
 リアルタイム測定法の開発などによって、従来はイメージで語られていた冷凍状態の見える化を進められ、冷凍食品にまつわる技術開発がどんどん進んでいることを発表されました。

 

(文責:食品技術士センター)