成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント ③ 時代に合った商品開発(成功事例・・・「ハネない油」があったらの声より)

食品と科学 VOL.56.NO.1 平成25年12月10日に掲載された記事 

   鈴木修武  技術士(農業部門) 鈴木修武技術士事務所 

1. 「ハネない油」の商品開発と時代背景

  昭和20年代から最近までの食用油と時代背景を表1に示した。昭和40年代になり油脂業界は、大量生産・大量販売になり、天ぷら油からサラダ油が広く普及し、価格も天ぷら油を同等になった。その後、石油ショックや業界で大量赤字もあった。今から思うと常に時代に合った新しい発想で商品が開発された。

                 1 油脂の開発の歴史

 
年代
昭和20年代
1945
昭和30年代
1955
昭和50年代
1975
昭和55年代
1980
平成2年代
1990
平成12年代
2000
平成22年代
2010

用途・機能

栄養要求

用途別

健康・調理別

調理・用途別

環境・健康

健康油

機能性

各種油

白絞油
牛脂
ラード

てんぷら油
サラダ油
マーガリン
ショートニング

リノール酸
ビタミンE

はねない油
ガーリック油
ゴマ油等

紙パック
一番搾り
カロリー半分
オレイン酸

健康エコナ
サララ
ヘルシリセッタ
ピア5

フルーツオイル
長調得徳・美味得徳

時代背景

食糧配給

オリンピック 

油脂自由化
万国博
コンビニ

ソ蓮アフガニスタン侵攻

イラク軍クエート侵攻
東西ドイツ統一

森内閣
2000年問題
21世紀グローバル化

リーマンショック
政権交代 

              富田勉:食品工業 p.52 8上(19829より鈴木加筆改変

 昭和50年代(1975)に入ると ①所得の拡大 ②洋風化による肉消費増 ③家電の普及があった。豊年製油は昭和51年に全社的な贈答用拡販が行われた。当時数パーセントのシェアしかなく同業他社との格差は著しかった。

 まず、「世界の油シリーズ」「高リノール酸シリーズ」を発売した。全社運動としてのギフト作戦は成功した。家庭用新商品開発の努力がなされ、私達が開発した商品が、昭和52年12月に〝はねない油があったら〞と言う消費者の切実なニーズから「ハネない油」が発売された。

 画期的な特許商品で、鉄板焼き用油としてその後市場を独占した。その計画書を表2に示した。この発売にはマーケティング手法が使われ、味の素も「クックドウ」の発売もあった。当社はガーリック油などの数種類の油の商品を開発し、澱粉部門からも「天ぷら粉」「コーンスターチ・クイーン」などの食品メーカーらしい商品開発もした。これらの商品は食品系特約店を通じて新しい販路を見出した。また、全国に10カ所の営業拠点を作りエリアマーケティングの核をしつつ、家庭用油脂分野での浸透を図る「ハネない油」は先兵であった。

      表2 商品開発計画書

 

 

内容

具体例

開発の概要

商品名称

豊年デリシィ

商品開発の目的

消費者の不満情報
要望

ハネない油があったら
サラダ仕様(0℃72時間透明)

商品のコンセプト

顧客の顔とTPO

30~40代の主婦
家庭・夕食・団欒

カラー政策

商品カラー・パッケージカラー

黄金色のイエロー

競合商品

メーカー名・ブランド名

なし新規 競合品(N社サラダ油)

商品仕様のポイント

原材料、副資材、産地、品質規格、使用量等

コーン油・ゴマ油等の自社製品、乳化剤

開発形式費用負担

自社・共同開発・委託等

自社

開発期間・日程

 

計画も含め1年間

特許・商標

特許・商標・意匠登録政策

特許取得・商標取得

生産形式

自社・委託・OEM等

自社

生産場所

生産場所・委託生産
既存設備・新規設備

清水自社
新規

ブランド政策

既存・新規ブランド・ネーミング政策

新規

広告宣伝政策

新聞・テレビ・ミニコミ紙等

新聞・テレビ・ラジオ

容器包装政策

瓶・缶・ペット・紙等
ラベル

瓶・黄色・シュリンクフィルム

販売計画

販売価格・原価率・販売数量
販売期間・販売チャネル

200g378円?原価率?
10万ケース(20本)

Table2拡大

2.ハネない油の開発意図と開発・生産の経過

 開発の意図は、食用油の消費者からの要望で「油の飛びハネの解消」であった。調理中の油のハネでヤケドの危険性、台所、テーブル、食器類の油汚れが発生する。
 ハネの種類は、①天ぷら、フライの衣や具から出る水と油から発生するハネ、②炒め物時の肉類、野菜類から出る肉汁や水と油のハネ、③エビの尻尾などの具の空気の急激な膨張より発生するハネである。③は調理の工夫で解決出来る。

 ハネない揚げ油と炒め油の開発テーマであったが、揚げ油は長時間の使用から解決不可能と判断し、炒め油に開発を搾った。
 ハネない油の開発にあたりどのようにハネなくするか。肉から出る肉汁や野菜の付着水を皮膜で防止する。肉類の周辺を固形化する。乳化層を作るなどで試験したが、乳化層が少し良さそうであった。

 試験するうちに泡で防止できるのではないかと思っていた。油周辺で泡の発生は、加熱劣化して重合した油(いわゆるカニ泡)や豚カツを多量に揚げると卵黄由来のレシチンででる泡、消泡剤として使用しているシリコーン樹脂の過剰添加などを試験した。卵黄由来と同類の植物油の製造工程中で除去される大豆レシチンに注目し、添加して効果があったが沈殿が出た。沈殿防止に処方を起し、瓶に詰めて翌日観察し、また処方を起こし苦労した。

 沈殿防止と透明な植物油は、食品乳化剤の組み合わせで解決できた。脱ガムで取り除いた大豆レシチン成分を再び添加する逆転の発想は業界では驚きであった。そのハネない油とサラダ油との現象の違いを図1 に示した。

 大豆レシチン配合であるにかかわらず、サラダ油規格のゼロ℃、72時間以上透明の植物油は画期的であり、特許も成立した。大豆レシチン生産・利用技術の長年のノウハウが生きた商品であったと言える。アイデアは先輩であったが、澱粉部門などから油に移り、油を常識が知らない筆者のビギナーズラックであった。

 実験室から工場生産への移行に苦労した。生産現場は1斗缶単位で、また斗缶の容器に付着する乳化剤はどうするか。現場試験後、許容範囲があり実験室の%より工場生産にあわせて油〇〇トンに大豆レシチン◎◎缶、A乳化剤△△缶と処方変更した。溶解に必要な時間、温度などを充分取り現場作業マニュアルを作り作業効率を求めて誰でもできる配合にした。情報を管理する意味でA剤、B剤、C剤、・・・とした。また、冬場対策として前日にお湯を張り、朝に作業できるように段取りをした。これらは工場と打ち合わせながら行った。開発から工場現場への移行にも色々なノウハウが必要であった。

 この裏話は今思うとゾットする。十数年後わかった話で会社では油の技術者を探したが移籍する人がいなかった。そこで前号で商品をした筆者に回ってきた。当時は商品開発と並行して、環境証明事業で各種の分析依頼された分析センターを任されていた。分析業務を続けながら、3か月で環境計量士の資格を取った。その通商産業省の計量研究所の研修で、地下のモグラのような仕事であるが世の中のためになるから頑張れと教えられた。自分では楽しい好奇心を持ってモグラ生活をしていた。分析法の取得や統計学、品質管理は後の商品開発や市場開拓に役立ち、人生でも仕事でも無駄がないことを実感した。自分との意図が違う配属でも役立つと思い、また商品開発や市場開拓には雑学が必要で異分野・異業種より新しいヒントが出る。

 話は元に戻すが、突然の指名で喜んで合意した。技術者で本社所属(東京)、勤務地(横浜)、当時窓際族と言う言葉が流行したがこちらは窓外族と言っていた。内心は身近にうるさい上司がいなく気軽に考えていた。上司はいい加減と言おうか開発意欲が強く現場に頻繁に通う尊敬する上司で、任されるとそれなりに能力を発揮すると思われる。しかし、予算がなく実験室はだれも使っていない部屋を使い、器具類は鉄板焼用のホットプレート、ビーカー、ガラス棒、天秤、冷蔵庫など少なかった。戦後育った人間にとって遊びの道具は自分で作ったのでなんでも利用した。悲観していなかったが、時間がなく12月発売で残された時間は装置の工事も含めて5ケ月で実験期間は3ケ月であり時間との戦いであった。

 所属は上司、先輩、開発者一人でほとんど一人実験をした。実験はどうしたら手を抜くか、学校で習った実験計画法など時間の余裕はなく効率的に実験した。その実験のノウハウは、基になる3~5種類の濃い溶液を作り、濃度別に重量を変えて段階的に入れて最後を一定の重量にする。実験にも生産性を上げる工夫が必要である。この手法を部下に教えたら1ケ月で商品化できた商品もある。
 その後、発売後順調に売り上げが伸びたが、一部の市場より、加熱による大豆レシチンによる褐変が問題になり、油脂関係者で改良実験が行われ一部改良した。

3. ハネない商品のその後の経過・・第1回リニュウアル作戦

 「ハネない油」は昭和52年(1977)に、平均7万ケース/年の売上であったが、昭和57年(1983)には4万ケースに減少した。その主な理由は消費者における最大の利点であるハネない油の機能を求めると泡が出る。この泡が不評であった。こびりつかない、肉をおいしくする、ビタミンE強化と言う面は付随的な利点でなく消費者の購買行動には結びついていない。また、「ハネない油」のデザインは不評で泡以外に高温で使えない、仕上がりが悪い、油の色がドロットしていることがあった。また、発売して5年の経過で新しい主婦層の登場で知名度がなかった。

 当時の家庭用油は、サラダ油+ごま油の2種が使われ、サラダ油は万能調理油で、ごま油は中華中心の風味付け油である。家庭用油はこれら以外には小型商品にならざるをえない。「ハネない油」とA社のシェフレ(ドレッシング専用油)が有利であると言える。他にN社製油の香味油(ゆず、しそ、しょうが)、風味油(ラーメン、チャーハン、焼きそば用)があったが不評であった。

 今回のリニューアルは、他の商品の差別化が大きくないので、トータルマーケティングすなわち、パッケージデザイン、広告、販売促進などミックスの活用が必要である。

 中華炒め油(プロの味とコクをきわめた中華料理専用油香ばしい落花生油をベースにジンジャー、フライ油(カラット揚がるフライ油)、ドレッシング油(ひまわり油、オリーブ油とフレッシュなレモン風味)に決定した。

第2回リニューアル作戦と強力ライバルの登場

 K社は、ハネない油よりも健康を前面に、また、大豆レシチンの使用によるドロッとした油、容器の油たれなど短所を調査して改良した。また、筆者の想像では、K社は私達の特許すなわちコーン油、ナタネ油、大豆油などの食用油(グリセリンに脂肪酸が3つ付いたトリグリセリド)をジグリセリドを使った食用油(グリセリンに脂肪酸が2つ付いたジグリセリド)に替え、さらに大豆レシチンを大豆レシチンから酵素で、分画・変性させて精製した、効果をさらに増したフォスファチジン酸に、二重に替えることにより特許を回避したものと思われる。そして、この商品を同じ市場に投入した。

K社のマーケティングは、
① 広告、宣伝、コマーシャル、販売促進
 積極的にコマーシャル、雑誌、料理教室を使い主婦を集めて調理教育
② 油を1/2で使える油控えめ健康イメージ
③ ジグイセリドであるために油っぽくなく、大豆レシチンを精製したさっぱりとした味
④ ジグリセリド、フォスファチジン酸の新しい素材を使った商品
 主要な学会誌に投稿し、科学的な裏づけを説明した。

  容器・包装をこの商品のために開発し、さらに油のタレを改良した油切れの良い容器を採用
当社対抗措置として大豆レシチンを分画したHPCレシチンやペットボトルを使い対抗した。

 約8年後の平成12年には、終売したのでK社のエコナに敗れたと言える。これは企業体質にも起因すると思われる。売る商品による体質にも起因すると思われる。売る商品による違いを表3に示した。その後健康ブームに乗り、健康エコナは、家庭用食用油の約1割のシェアまでになり、その後、A社の健康サララやN社のヘルシーリセッタも発売された。K社のエコナはその後、事情があり終売になった。

表3 生産財(業務用)と消費財(家庭用)の違い

 

生産財

消費財

生産規模

多品種少量生産

少品種生産

生産

受注生産
 オーダーメイド

見込み生産

設備投資

受託可能

投資 多大

調査

自社

専門会社(広告代理店)

市場調査

マーケティング

 

 家庭用商品は商品化した後は技術者はやることがなく、営業の活躍の舞台である。
この装置を使いなにか商品ができないかと考えて色々な商品展開をした。その具体的な展開を表4 に示した。技術的な取り組みとして大豆レシチンを添加すると驚異的に油の酸化安定性が増すことがわかり、抗酸化油の開発をした。また、肉類を焼いた時に鉄板に付着しない現象や洗浄しやすいこともあったが、その時はそれ程重要視せず、なんとか次の商品開発をしようと考えていた。今から思うと開発途中では将来の展望などできないのが通常で試行錯誤の連続であったそこでリスクを掛けて開発するかしないかの差がでる。会社の風土や当時の経営者や開発部門の上司や個々の開発者の気持ちが大切ではないかと思う。だれも失敗が嫌いであり、失敗しないとなにもうまれないのでないだろうか。

表4 ハネない油のマーケティングと技術的な展開

 

マーケティング
(広告・宣伝等)

技術的な取り組み

その後の展開

ライバル商品

昭和52年(1977年)

テレビ宣伝、中村勘九郎の起用、宣伝、販売促進、食品系特約店

特許商品と関連特許20件出願
大豆レシチン+乳化剤、酸化防止剤等のコア技術

H社離型油、炒め油、炒め機、抗酸化油の業務用に展開

独占

昭和58年(1982年)

テレビ、雑誌パッケージデザイン、広告、販売促進。モニター調査、店舗調査
プロジェクトチームの開発

香味油+香辛料+香料

落花生油、オリーブ油

ドレッシングへの参入

S社

N社(ハーフィット)

平成3年
(1991年)

テレビ
容器・パッケージの改良

HPCレシチン
乳化剤の利用拡大

H社炊飯油
H社花咲油への展開

K社(エコナクキングオイル)
N社炒め油
A社ピユピユ

平成12年
(2000年)

終売

スーパーキャノーラ油の利用

 

K社(エコナクキングオイル)
N社炒め油

鈴木修武:技術者が「魚の釣り方」を教える  NO.6 p16 フードリサーチ

 
参考文献 鈴鹿明・佐多博樹・鈴木修武:特許公報昭60-50422 
   鈴鹿明:ハネない油 VOL.12 NO.1 調理科学(1979)
   鈴木修武:技術者が「魚の釣り方」を教える  NO.6 p16 フードリサーチ(2009)