成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント ④ 市場開拓は苦労の連続であったが喜び120% (成功事例―離型油、炒め油類)

 食品と科学 VOL.56.NO.2 平成26年1月10日発行

鈴木修武        技術士(農業部門) 鈴木修武技術士事務所 

 1. 離形油、炒め油類の市場開拓の経緯

 家庭用のハネない油は、爆発的に売れて製造がフル運転であったが、数ヵ月後販売予測が外れ在庫が増えた。この製造装置を使いなにか商品開発出来ないかと姉妹品を作り、市場開拓をした。

 市場開拓は開発よりも苦労したが、食品業界を知るために良い経験であり数々の商品が開発できた。昭和53年に離形油として発売したが、小ロットで生産規模に合わず、生産現場は売れない商品を作ったと言われて、ハネない油製造の終了後に最少ロットを生産し商品とした。

市場開拓の苦労は時系列で述べればその当時の様子がわかる。当時の経過を表1に示した。

 表1 離型油、炒め油、麺ほぐし油の市場開拓経過

経過年

用途および備考

昭和53年(1978年)

離型油開発

昭和54年(1979年)

試行期間・・・米菓、惣菜、麺業界など

昭和55年(1980年)

米菓業界(あられ、せんべいなど)使用量少

焼きそば炒め試験開始

昭和56年(1981年)

人形焼き、どら焼き、アユ焼、雷おこしなど使用量少

焼きそば用炒め油(本格販売)、焼きそば機発売

麺ほぐし用保存試験、卵業界(厚焼きたまご)

スポンジ用練り込み油:不採用

昭和57年(1982年)

水産業界(練り製品、カニ風味、伊達巻き)

昭和58年(1983年)

パン業界(食パン:合格不採用)

昭和59年(1984年)

キャンディー業界(固形離型油)

昭和62年(1987年)

麺ほぐし用本格開発、強力離型油、たこ焼き

 鈴木修武:食品と科学 ㈱食品と科学社(2014)より

 

 昭和53~55年まであまり成果がないのは試行錯誤であった。また、ハネない油の改良試験や後で述べる米菓用抗酸化油の開発や販売促進、他の汎用性の技術支援特にクレーム処理は最優先であった。本社に出勤するとどこのクレーム処理かと尋ねられた。汎用油は大量生産・大量販売で使い方が適切でないなど現場と隔たりがありそれがクレームになった。

 顧客の市場開拓は、上司と技術営業の2名と実験に筆者と女性スタッフで行った。この技術支援は現場での植物油の正しい使い方や製品の一般分析、賞味期限の設定、顧客のクレーム品の分析など研究室で得られない現場の把握や生産者の生の声を聞ける貴重な体験をした。

 離形油の市場開拓で苦い経験をした。ある会社は米菓用揚げ油の開発でお世話になり、新潟方面の顧客回りの拠点的な存在であった。この工場で作業終了直前に試験が行われ、作業員がかなり集まり試験を見守った。開始してまもなく「剥がれない、剥がれない」とだれもが言い試験は見事に失敗した。新幹線がない時代に長岡駅より4時間近くほとんど途中の記憶がなく上野駅に着いたという体験者しかわからない苦労もあった。

 次にハンバーグの現場では、鉄の棒にサラダ油を塗布しても離形が悪く、サンプルを持って現場を訪ねた。試験をして少しは改善されたが、採用はされなかった。その奥で、焼きそばの製造部門があった。鉄板焼きの大型の鉄板で焼きそばを焼いていた。焼きそばはサラダ油で充分炒めることが出来るが、焼きそばソースを添加した時に鉄板にコゲ付いた。この離形油で試験し、評価は素晴らしく商品化のメドが立った。現場は喜んだが、購買課はサラダ油の約2倍の値段で採用されなかった。現場を味方にするしかなく、500gから1斗缶まで作って現場に送り試作品として使われた。他のスーパーのセントラルキッチンの現場でも焼きそば作りをしており、ある程度炒め油の需要があると確信し、後から述べる技術資料を作り、炒め油として商品化した。

 その後、人形焼に採用されたが、半年間で半缶(8kg)消費の販売量は伸びなかった。この問屋のルートでカステラ菓子、小麦粉煎餅など歩いたが採用は少量であった。鮎の形をしたあゆ焼の現場で商品に黒いカスが付くクレームがあり、商品を見ると今までのカスが剥がれた結果で性能には自信を持った。また、どら焼きでは、この離形油では剥がれが悪いので、大豆レシチン量を増した商品を作って供給したが、生産ロットに合わず供給停止になり出入り禁止になった。

 

雷おこしの現場では、問屋の社長から技術者の視点のヒントを頂いた。

 技術者が社会貢献をするには時代を見て、自社や顧客の経済的な視点や生産の省力化、技術の普及をしなさいと言われた。昔の職人は親方からの伝統を守っているが時代は固いお菓子ではなく柔らかいお菓子を求めておりなにかヒントをくれないか言われた。浅草のおこしは、砂糖、水あめに水を加えて加熱して煮詰める。おこし種を入れて、油を少したしてソフトにして型に流し込んで冷却しておこしにする。この離形油はおこしの剥がれは良いのと内部に添加する油の代わりになり、よりソフトになったがコスト高で採用されなかった。このルートで五宝菓の製造現場にも行った。

 市場開拓は商品が継続して販売されないといけない。いくら社内技術報告を書いても商品が残らないと技術の伝承がなくなると考えて販売促進ための試料作りと販促用の技術資料作りに時間を割いた結果、商品が残ったと思われる。商品開発は売れないと社内の賛同が得られなく商品も残らないと思われる。

 やっとたどり着いた大口の用途は、のちに述べる厚焼き卵、薄焼き卵用離型油である。ある大手の卵焼きメーカーに行きこの離型油を紹介した。当時の油はサラダ油で卵焼きに1時間、ラインのカス取りと洗浄に2~3時間であった。この離型油を使用すれと1日の仕事が午前中に終了して、大変喜ばれたことが昨日のことのように思い出される。
スポンジ用練り込み油は、関係があった外資系の会社に接触し現場試験で成功したが、海外の本社の許可が下りず不採用で断念した。

 水産練りに採用された時は、特注品になり、最少ロットの製品を作り一括納品で切り抜けてその後採用された。
食パン等に使われている天板油を作りある大手の製パンメーカーに持ち込み現場試験は合格であったが納入できなかった。販売員の話から天板油専門メーカーにさんざんお世話になっている現場が採用しなかったと推測した。

 その後、離型油として洋菓子業界をはじめ和菓子、煎餅、麺のほぐし、水産練り業界等に足を運んで食品産業の離形油として市場開拓をした。現在もこの分野の離型油が伸びているが、公表された資料がないのが現状である。

 

2.炒め物と炒め油の加熱劣化および焼きそば試験

 焼きそばである程度の販売が可能だったので炒め油の加熱試験と焼きそば試験をした。
 太田らによれば、炒め物における油脂の役割は、①食品の香りや色の発現に関与する。②食品が加熱面にこびりつくのを防止する③食品に移行した油脂独特の味を付与するなどがある。ここで取り扱う大量炒め用に求められる炒め油の機能は①高温で使用されるので加熱劣化に強い。②焦げつきやすいので離型性が良い。③少量で効果が出る。④油のうまみがある。⑤洗浄性が良いなどが考えられる。⑤の洗浄性は意外に思われるが業務用では重要なことで作業終了後に器具を洗うので洗浄しやすいことが必要である。炒め油は、これらの要件を備えている。

植物油と炒め油の加熱劣化の比較試験

 通常炒めに使われている油と炒め油で、加熱した時の酸化に指標である過酸化物価を測定した結果を図1、2に示した。試験方法は、プライパンを想定して300wの電熱器にアルミニウム製バット(16.5×10.5cm厚さ約0.7mm)を置き、表面温度計の測定で200℃に加熱する。各試料油を10g投入して、5分間加熱後採取し、この操作を5回繰り返して試料油とする。基準油脂分析法で過酸化物価とカルボニル価を測定した。

図2 各種油の加熱後のカルボニル価
鈴木修武ら:焼きそば製造と植物油 p.98財団法人杉山産業化学研究所年報(2007)より

図1  各種油の加熱後の過酸化物価
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

 

 純正ラードと大豆油は予想したように過酸化物価とカルボニル価とも急激に上昇した。植物油の中で比較的に安定性の良いコーン油とゴマ油も両指標とも上昇したが、炒め油はあまり上昇しなかった。

焼きそばの炒めにおけるサラダ油と炒め油の温度変化の違いを図3に示し、その写真1に示した。この図は展示会でサラダ油と炒め油のアピールのために電熱器とフライパンで比較試験したものである。

   焼きそばを焼きソースを入れるとサラダ油は麺が付着し炒めができなかった。炒め油は付着せずその後も炒められた。見ていた人に「嘘でしょ」と言われなにか細工をしているかと疑われた。

   図3は、350℃で炒めた例であり、サラダ油では温度が急速に低下し200℃以下で少し焦げ着きさらに低下している。その後に水を添加するとサラダ油では離型性が悪いために麺

図3 サラダ油と炒め油の温度変化の違い
 鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

が焦げ着き、フライパンの温度測定ができなった。炒め油ではサラダ油と同様に急速に温度が下降したが、サラダ油よりも低下が少ない。この理由として麺がフライパンに焦げつかないために温度低下が少ないと考えられる。その後水を添加することにより急激に温度低下するが、離型性が良いために麺がフライパンに焦げ付かず、温度測定が可能であった。水の蒸発と共に温度上昇し、ソースの添加により温度低下するが焦げつてかないために温度測定は出来た。炒め油を使用す

写真1 炒め油(左)とサラダ油(右)の違い
 鈴木修武:食品と科学 ㈱食品と科学社(2014)より

れば、焼きそばを連続して炒めてもフライパンには焦げがないために連続して炒められると考えられる。

 サラダ油と炒め油の使用量と焦げつき量を試験する目的で、むし中華めんにコーンサラダ油3と5%を、炒め油で3%を中心に1~5%を試験した結果を表2に示した。

 

  表2  サラダ油と炒め油の使用量と調理特性

使用油

使用量(%)

調理性

離型性(%)

(コゲ付量)

風味試験

食感

喉越し

香り

総合

サラ

ダ油

3

×

1.88

×

5

0.78

×

炒め

1

0.16

2

0.14

3

0.05

5

0.00

鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

   試験方法はむし中華めん200gに既定量の油脂をまぶし、フライパンの表面温度が250℃になった時点でむし中華めんを投入しよく撹拌し3分間加熱する。その後水を15ml添加し2分間加熱し、ウイスターソースを26ml添加し2分間加熱する。調理性の評価は撹拌時の箸の抵抗、麺の表面の状態や炒め時の状態などとした。炒めた後のコゲの量を離型性とし、食感、喉越し、香り等の風味試験を行なった。

 コーン油の使用量3%は、麺がフライパンの表面に焦げつき気味で箸の掛る力が強く感じられ、麺の表面は焦げつくためにかなり荒れていた。水添加後さらに激しくなり充分に撹拌できず、ソース添加後は麺がフライパンに焦げ着いた。コゲ付き量は約2%で多く風味試験の食感でも水分を吸ってグチャグチャする状態で、シコシコしている状態ではなかった。コゲ付くために麺の表面が荒れて水やソースが麺に吸収され水分が多いと思われる。また麺がフライパンに接触せず麺が加熱されない悪循環のために良く炒まれずく風味も良くなかったと考えられる。コーン油の5%使用でも少し改良されているが同様の結果であった。3%でも5%でも業務用の作業では製品ロスや洗浄の時間ロスが掛ることが予想される。

 炒め油1%では、油が少なすぎて風味試験の評価は良くないが、コゲ付き量はコーン油の1/5~1/10であった。大豆レシチンの離型性の効果が発揮されていると考えられた。炒め油2%では1%と大差がないが食感、喉越しなどの風味試験は改善されている。炒め油3%ではすべての評価は非常に良く、コゲ付き量はほぼ0に等しかった。食感はコゲがないために麺の表面が炒っており、外側は固く、内側はシコシコして非常に良かった。風味試験は非常に良く、油の添加量は適度で喉越しも良く、炒めた風味も出ていた。この量で連続運転して作業できると考えられた。炒め油5%では、調理性、離型性とも良いが、風味試験では油が多いために評価を落とした。

 業務用のむし中華めんは、殺菌された麺にほぐし油と言われる油を噴霧し、1~10kgのプラスチックの包装袋に入れ、蒸気や加熱殺菌庫で85℃、45分以上で殺菌される。炒め機で焼きそばを試験を始めた頃、適正な業務用むし中華めんはなかった。数社購入しある製造者と話し合って決めた。炒め機のデモの時は、ほとんどこの製造者より購入し

た。当時、業務用には約2%のサラダ油が塗布されていたが、ほぐれは充分でなかった。ほぐれてコストメリットのある油の開発ニーズがあることがわかった。ほぐし油とはむし中華めんを製造後、包装し、殺菌する時や輸送中に積み重ねることにより、麺同志の自重で使用時にほぐれないことが多く見受けられる。作業性が悪いことから、ほぐし油が必要であった。サラダ油では焼きそばを焼く時にダマになりほぐしを必要とし多大の労力と麺の切れる欠点があり、商品価値を

著しく低下させた。サラダ油を多く塗布すれば、袋の底に油がたまり、袋の汚れで見栄えが悪かった。筆者らが炒め油

をほぐし油とし発売したが麺や袋の

底に白濁したのでこれらを改良した白濁しない油を開発した。そのサラダ油と麺ほぐし油を写真2に示した。 

写真2 サラダ油と麺ほぐし油の違い

 

3.厚焼き卵の試験方法と比較試験

 離形油を使用した厚焼き卵について述べる。市販の厚焼き卵用フライパンや通常のフライパンを用いて試験したが再現性や評価法など一定しなかった。

 そこで、卵焼きの大手メーカーの品川製作所の協力で、機械の一部のアルミ製のケースを譲り受け改良して試験した。この容器は、幅10.5cm×長さ21.7cmで、焼き方は図4に示すように交互に重ね合わすように焼き上げていく方法で行った。

 厚焼き卵の離型性の要因と試験結果を表3に示した。試験方法は表に示した配合で全卵液を作り、80gのビーカーに取り1回分とした。あらかじめ加熱したアルミケース駒込ピペットに離型油を取り、ガーゼを巻いたガラス棒にて均一に塗布した。所定の温度になった時に、全卵液を入れて図の様に焼き重ね合わせ6回この操作を行い、厚焼き卵1枚とした。評価方法は、アルミケースに付着した卵量を計り、相対比較で表現した。コントロールとしてコーンサラダ油を試験したが、評価出来ないほどに付着したので、この表には離型油で行った結果だけである。

    表3 厚焼き卵の離型性の要因と試験結果

要因

条件

結果

要因

条件

結果

油の使用量

(全卵液に対する%)

1.3

全卵液のpH

6.8~6.9

2.0

6.57

2.5

6.3

×

3.1

6.2

×

全卵液の温度(℃)

10

離型油のレシチン量

現行

20

現行の2倍量

×

30

現行の4倍量

×

アルミ板の温度(℃)

100

澱粉の種類ワキシースターチ:W

馬鈴薯澱粉:馬に略

W:無添加

110

W:2%添加

120

W:4%添加

130

馬:2%添加

全卵液の組成・全卵70%砂糖4%調味液0.1%食品添加物2.1%残部水

相対比較  良い ◎>○>△>× 悪い(表中の記号)

鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

 

 

 最初に離型油の全卵液に対する使用油量の試験を行った。使用油は約2%が良くこれよりも多くても少なくても良くなかった。約3%の様に多い場合は、重ね合わす時に卵同士が付かず剥がれるためであり、少なければアルミ板に付くためであった。

 全卵液の温度はこの範囲の温度変化では関係がないことが判ったが業務用では、冷凍卵、冷凍卵白、冷蔵庫に保管した全卵を使用すればこの結果も変動することが考えられる。作業初めのアルミ板の温度も影響することが考えられる。

 離型性の改善に、離型油のレシチン量を変えれば、効果があるかどうかレシチン量を2,4倍に変化させたが現行が優れていた。焼いる時の観察では、レシチン量が多くなれば、全卵液とアルミ板がピッタリと付いており、お互いに良く馴染じみ過ぎて水蒸気の抜けが悪くなったためと思われる。

 澱粉の添加は、プラスの効果に働くが、4%の添加では卵焼きが糊っぽくなり食感や風味が悪い。澱粉の種類は馬鈴薯澱粉よりワキシーコーンスターチが良かった。

 

4.終わりに

  これらの試験は現場試験する前後に、販売促進資料やカタログを作った。実験室で試験しても商品化するためには現場試験が必要である。ここであげた事例はすべて現場で試験した。多くの現場試験にご協力してくださった企業には今でもありがたく感謝し、共に試験した現場技術者や作業者の顔が思い浮かぶことがある。

参考文献    
鈴木修武:離型油の上手な使い方  Vol.10 フードリサーチ(1999)
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)
鈴木修武、山田忠和:焼きそば製造と植物油 p.98財団法人杉山産業化学研究所年報(2007)

この記事は、(株)食品と科学社より許可を得て再掲しております。