チョコ工場見学からの発展は?

食品化学新聞 リレーシリーズ 2005年11月10日掲載

中山正夫 技術士(農業・水産部門) 中山技術士事務所

映画に香り

今年9月、東京・六本木ヒルズ内の映画館で、『チャーリーとチョコレート工場』を観賞した。内容そのものは子供向きだが、家族愛を教える楽しき佳作といえた。粗筋は、貧しき家庭の子供チャーリーが、一家の窮状を救おうとチョコレートを買い、ゴールデンカードを当てる。そして当選者の子供4名らと一緒に、チョコ製造工場を見学することになる。

巨大な工場内には茶褐色の液状チョコが川のように流れ、気泡を均質に混ぜてソフトにするチョコ滝、また、多数のリスを使ってのナッツ皮剥き等々のアイデアがいっぱい。食品関係者にとっては必見の映画だ。臨場感を高めるため、ここでは映画の進行にあわせて客 席までチョコの香りを流す専用送風機を置いたとのこと。都内で2カ所の映画館だけという。

館内で画面にあわせて香りを流す発想は昔からあった。たとえばビーフステーキを焼くシーンでは牛肉の焼き香、コーヒーを飲むシーンではその香りを観客に匂わせて映画面に引きこみたいー
とはディレクターならずとも思うところだ。

しかし、この夢を正確に実現させるのは至難の業。広い空間を持つ館内で、それぞれのシーンごとに香りを漂わせるのは、換気能力など劇場自体の設計から考え直さねばなるまい。事実、上映前の館内にチョコ残香あり、また、映画のチョコシーンでも香りを感じるまでのタイムラグがあった。しかし、この映画ではチョコの香りだけのため、とやかくいわれまい。 逆に強過ぎるチョコ香では観客の衣服に付いて、後まで残るとクレームは必定。やはりほのかに匂 わせる程度が安全だ。

同伴した妻の提案では、――チョコ香をしみこま せた紙片入り袋を観客に渡し、タイミングよく開封させ、嗅がしては (?) と。また、本物のミニチョコをサービスするのも一法か。チョコメーカーの協力により実現した事例もありそうだ。

香りの意外な機能

プロボクサーがパンチを受け、頭がもうろうとなりコーナーに戻った時、アンモニアを嗅がせて意識を取り戻させると聞く。それぞれの香りの機能を生かした用途があるから面白い。

以前、ある香料メーカーの試作品、『ビーフシチュー香料』を嗅いだことがある。これが本物以上 (?)の香りで、瞬時に口のなかに多量の唾液がわき出したほどだ。丸善食品総合辞典で『唾液』を調べてみると
―― 口腔内に唾液腺から分泌される。α-アミラー ゼ、ムチンを含み、1日 500ml分泌される。炭水化物が一部分解され食物を軟らかくし味覚を起こし虫歯を防ぐ――
とある。”香り → 唾液生成 → 消化酵素活性化 → 消化促進→食欲増進“と連なれば、健康維持機能といえよう。

海外輸出する機械をV PI (気相防錆剤) 紙と共に包装すれば、ガス状 になって錆止めに働く。 また、蚊取り線香の煙は防虫が自的になる等々の他分野の事例を参考にして、香り利用の再検討が望ましい。

花、香草などの香りを嗅いでストレスを軽減し、心身の健康をはかる療法“アロマ・セラピー”があり、若い女性には人気だ。が、残念なのはここで使う成分が自然の草、花が中心で、食べものの香りや煮など“食”に関係するものはあまり聞かない。たとえば、うなぎの蒲焼き香、カレーソース香、シュウマイ香、お汁粉香、焼き立てパン香、焼き餅香など、“フードアロマ・セラピー ”へとエリアを広げたいもの。誰にも親しめる庶民の香りも加えたい。

一方、健康上の理由から好みの食品を制限された人々はお気の毒。ブラーンディや芋焼酎の香りも役立つ場合もあるか。糖分、脂分の摂取制限を受けた人、また、アレルギー患者もその香りによって満足度が高まり我慢もあり得よう。逆に、満腹香 (?) が開発されれば、ダイエット分野にも活用できるのではないか。本稿を書いているうち、“香りは鼻で食べる もの”として見ることで、次元の違った“新しい食生活”が生れてきそう。それにしても映画とは素晴しいもの、であり、ヒントを見出し、応用しなければもったいない。

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