『されど水』の活用

食品化学新聞 リレーシリーズ 2006年10月26日掲載

中山正夫  技術士(農業・水産部門) 中山技術士事務所

水の冷却効果

今夏の猛暑のお陰で、飲料関係業者はかなり潤った様子。“暑さ ⇒ 汗をかく⇒ 喉が渇く⇒ 水を飲まざるを得ない”との流れにのり、『よく冷えた飲料水』に行き着くのは当然のことだ。特に気温が高くなるほど、後味がベトつくアイスクリームは敬遠され、甲子園の高校野球でお馴染みの『ぶっかき氷』を筆頭に、シンプルな冷水や炭酸水が好まれる。

一方、都市へのオフィス集中化のため、ヒートアイランド現象による暑さは益々厳しくなっている。ビル内をクーラーで冷やした反動で、外気温は逆に上昇。これに強い日差しによる路面の照り返し熱もプラスされる。
そこで涼をとるための江戸時代からの知恵『路上への打ち水作戦』が、都心のオフィス街で行われた由。風物詩の再現か、地元の人々が手桶を持って『下水の再生水』をまき、結果として気温を2~3%低めたという。 水の気化熱は539cal (1 g当たり) と、かなり大きいのだ。工場でも屋根を含めて利用したい手法であり、庭の芝生に水をやるようにホースで上向きに散水すれば、周囲の空気まで効率よく冷やすことができよう。

食品加工設備にも気化熱利用の真空冷却装置が普及している。特に煮物、蒸し物、ゆで物、そして炊飯などを行う惣菜弁当工場では必須とされるほど。加熱調理し終った食品の品温を、短時に20℃付近まで低下させるのは、食品衛生の基本となる重要管理点にも相当するところだ。高品温の食品を密閉した減圧環境に置くことで、食品に含まれる水分の蒸発を促進し、品温を急速に低下させるのに役立つ。この装置がなき時代は、加熱食品を冷却するのに大型ファンを使ったもの。そのため、品温低下はしたけれども、周辺の微生物までを巻きこみ、食品を汚染させたことを思い出す。

水の補給

前項とは違った視点か ら 『水の役割』を眺めるのも面白い。

過日、知人からいただいた『冷凍肉まん』での話題――召し上がり方の説明に、『電子レンジ使用の場合は、紙包装のまま水に浸し取り出してからチンして下さい』と記されていた。仕事柄、無『水浸漬』のコントロール試験区品と共にテストしたところ、結果は予想どおり。加熱し終った肉まんの表面の皮の食感に大きな差を認めた。蒸し器による加熱ならば水蒸 気から常に水分補給をし続けるため、ウエットにしてふっくら仕上がるはず。しかし、ドライ加熱では肉まん表面の水分補給をいかにするか?との解明の一つと思いたい。

“炭”による『うなぎの蒲焼』や『焼きとり』では、さらに多くの水分補給が求められる。焼きもの表面は直火加熱により、過度の乾燥状態になりやすく管理がむずかしい。プロの調理人は、ほどほどに焼けたところ で、表面にスプレーで水をパッとひと吹き。焼酎の水割りがよいという秘伝も聞いた。すでに焼きもの工場で水噴霧方式を取り入れているところ もある。

次元を変えた水補給で活用されてきた方式に『過熱水蒸気加熱』がある。30年近くも前になるか、イタリアギョウザともいわれる『ラビオリ』の製造工場で、その加熱乾燥工程の改善案を依頼されたことがある。その乾燥工程とは、下部に高熱量のガスバーナーがあり、その少し上に水の入ったバットが置かれ、さらにその上をチェーンコンベヤーが走る半密閉タイプの手づくり装置によるもの。いま考えれば、 過熱水蒸気加熱の原形といってよさそう。ラビオリ乾燥にかかる熱気温度は200℃を越えたか。
しかし、水蒸気が混ざった熱気のために、製品の乾燥面はひび割れもせず、褐変もなくてきれいに仕上がっていた。ただし、この場合、高温空気と水蒸気の混合に過ぎず、飽和水蒸気で乾燥機内を満たせない問題はあったろうが、発想のルーツは初歩的な理化学の基礎より芽生えたと信じたい。

その他の水利用

漬けもの工場では『天樽』と業界用語を持つ大型のポリバケツ状容器が使われる。この容器は野菜の漬けもの用にも使われる一般的なものだが、変わった使い方は、漬けもの用の重し代わり。つ まり、バケツに水を張って“液体 ⇒ 固体”化し、漬けもの石 (?) に変身させてしまう。野菜を塩漬けした容器の上に、空のポリバケツを乗せ、それに水をホースで入れればOK。労力はかからな い。『水は方円の器に随う』―― 器に限らず、水そのものの特性を見極めて活用するのは自由なのだ。

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