HACCPは誰でもできる

食品化学新聞リレーシリーズ No.1 2000年10月5日掲載

西川研次郞  技術士 西川技術士事務所

今夏はあらためて食品の安全性についての管理が問われた夏であった。
食品の安全性の問題の中で特に重要なのは食中毒の予防であるが、その予防のための最も優れた管理手法はHACCPである。雪印の事件からHACCPは役に立たないと言う人も多いが、今回の事件はHACCPが正しく適用されていなかったために起ったのであって、正しいHACCPが実施されていれば今回の事件は防げたのである。

消費者は、腐敗や変質した製品は臭いや味で気付いて食べないので、このことで病気になることはまずない。しかし、病原菌により汚染されている食品は、五官で感知することができないので、消費者は気付かないで食べ、その結果食中毒が発生する。今回の雪印の事件も、黄色ブドウ球菌の毒素による汚染に消費者が気付かなかったので発生したのである。HACCPは、この五官で感知できない病原菌の汚染が起らぬよう、危害要因分析を確実に行って製造工程をコントロールする手法なのである。

HACCPは、健康被害の発生を予防するために、原料の生産から最終製品を食べる消費者に至るまでのすべての人が実施しなければならないものであるから、小規模の事業者であっても日常の生産活動の中で過重な負担がなくできるものなのである。小規模の事業者でHACCPが実施できない理由の一つに、HACCPが求める沢山の記録の作成のための専任の担当者を置けないということがある。しかしHACCPは、コントロールしなければ安全を保証できなくなる数個の工程(CCP)だけを確実にコントロールすることであるから、沢山の記録の作成も、専任担当者の配置も必要はなく、小規模の事業者でも十分実施可能である。 ぜひ、HACCPをまだ実施していない事業者もこのように考えて取組んで欲しいものである。

今回の雪印の事件に関連して、いろいろな異物混入の問題が報道され、異物混入が原因で回収された製品も多くあった。この異物混入では、硬質異物と軟質異物とは、区別して考えなければならない問題である。混入異物による消費者の健康被害の発生の恐れは、硬質異物による怪我である。従って金属片やガラスのような硬質異物は、HACCPでコントロールしなければならないし、もし発見されたならば、同一製造ロットの製品すべてを回収する必要が起ることも当然ある。しかし同じ異物混入であっても、3ミリや2ミリの大きさのハエやアリの混入の場合はどうであろうか。もちろんこれらの昆虫の混入は食品にとっては好ましくなく、食品製造者は、これらの異物が混入しないよう懸命に努力しなければならない。しかし、これらの混入は、万が一食べても通常は健康被害をもたらすことはないし、購入者が目で見て判別除去できるものであるからそのまま食べられてしまうこともまずない。従って、もし購入後に発見されたならば、その製品についてはメーカーは何らかの保障はしなければならないが、その製造ロットすべてを回収するまでの必要はないと考える。

食中毒の発生や硬質異物の混入を減少させることは、今後我が国ではますます重要になってくる。そのためには、何が不可欠なのかを正しく認識して、真のHACCPを実施することがますます重要になってくる。

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得意分野は水産加工工場における経営・製造・品質管理技術・開発などの相談、HACCPの工場導入など。

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