改めて正しいHACCPについて

食品化学新聞 リレーシリーズ  No.133  2003年11月6日掲載

西川研次郞 技術士(水産/総合技術監理部門) 西川技術士事務所

本年6月のifia JAPANで、正しいHACCPについて話をする機会があり、また、最近いくつかの雑誌にも、正しいHACCPについて執筆した。今回も同様のことを述べることになるが、それは我が国におけるHACCPの理解があまりにも混乱しているので、機会を捉えては正しいHACCPについて記し、1人でも多くの人に正しいHACCPを理解してもらいたいと思うからである。正しいHACCPを理解すれば、HACCPは決して複雑で難しいものではないし、費用がかかるものではなく、誰でもできるものであることがわかる。

平成7年(1995) に総合衛生管理製造過程 (マル総)に基づく承認制度が制定されて以来、我が国でも、HACCPは導入されているのであるが、その普及率は低い。この普及率の低い最大の理由は、マル総そのものにあると思う。即ち、多くの食品加工業者がHACCPは複雑で手間がかかり、加えて費用がかかるものとの誤った認識を持っているのは、マル総が原因であると考えられるからである。最近になって、ようやくマル総はHACCP そのものではなく、HACCPの考え方を取入れ日本の独特の制度に過ぎないから、HACCP を導入することと、マル総の承認とることは別のことであることが理解されるようになったが、いまなお多くの人、特に中・小・極小食品業者は、HACCPは複雑で手間がかかり、加えて費用がかかるものとの誤った認識を持っている。

食品の製造者は、食品に由来する健康被害を消費者に与えないように食品を製造しなければならないのは当然である。従って、その健康被害を予防するための最も優れたツールがHACCPであるから、HACCPは決して高度な手法ではなく、食品製造業者ならば誰でもHACCPを実施しなければならないし、また毎日の製造作業の中で誰でも普通にできるものでなければならない。

現在世界のHACCP の基準の中心は、CODEXの「食品衛生の一般原則」である。そこに書かれていることは、いわゆる一般衛生管理に相当するものであるが、あくまでもこれは推奨されるやり方である。これは、そこに使われている助動詞のほとんどが、推奨、または勧告手順を述べる should (することが望ましい)であり、強制された義務をなるときに使用されるshall (しなければならない)が使用されているセンテンスは極めて少ないことからわかる。しかるに、世の中に出ているCODEXの「食品衛生の一般原則」の日本語訳の中には、shouldを“しなければならない”、と誤訳しているものがあるので、この誤訳も正しいHACCPの理解を妨げている大きな一因と思う。

HACCPを導入する前にプレリキジット・プログラムの実施が必要であることはそのとおりである。しかし、プレリキジット・プログラムを前提条件プログラムと訳してしまうと、前提として完了しなければHACCPが導入できないと考える人が多くなり、誤解を生むことになる。誤解の結果、設備に金をかけな いとHACCPに進めないと考えるようになり、HACCPは高度な衛生管理手法で、到底実施できないものと思い込むようになる。決してそのようなものではないのに。

HACCPは危害要因分析が大切であると前回も述べたが、危害要因分析とは、各原料や製造工程に潜んでいる危害要因をすくい上げ、そのコントロールを一般衛生管理で行うのか、それともHACCPの7原則を当てはめて行うかのいずれかに仕分けることなのである。その結果、コントロールを一般衛生管理で行うことになった場合に設備をどのように整備するかは、加工業者自身が自分の工場に必要なものを決定すべきものであって、別に定められた一般的な基準があるものではない。例えば、漁師が自分で釣った魚を軒下で干して販売する干物の場合も、食品由来の健康被害を消費者に与えるものであってはならない。即ち、漁師自身はHACCPを実施していないと言ったとしても、漁師が販売するそのような物が安全であるならば、HACCPの7原則を当てはめてみれば、危害要因は正しくコントロールされていることになる。この場合でもHACCPは設備に金をかけることではない。

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