前提条件プログラムとは

食品化学新聞 リレーシリーズ  No.177 2004年10月14日掲載

西川研次郞 技術士(水産/総合技術監理部門) 西川技術士事務所

HACCPによく出てくる英語にPrerequisite Programs (以下PRP) がある。このPRPは Programsと複数形になっているように、色々なプログラムを1つにまとめたものであって、内容と手順とが決められたPRPという特定のプログラムが存在しているわけではない。日本語の訳としては前提条件プログラ ムと訳されることが多いが、この訳は大変誤解を生んでいる。

その誤解とは、前提条件なのだから、HACCPを実施する前に必ず実施済みでなければならないと理解してしまうことである。つまり、前提条件プログラムを完全に実施しなければHACCP を行うことができないと考えてしまう誤解である。

なぜ誤解かといえば、PRPとは、前もって必要なプログラムという意味であるが、HACCP を実施する際に実施済みでなければならない前提の条件という強制的なものでは決してなく、実施しておけばHACCPがやり易くなるというものであるからである。たしかにPRPはHACCP 導入前に実施済みであることは極めて望ましいが、あまりにも広範囲に亘るので、実施済みとするには大変な手間と時間がかかる。もし、完全に実施しなければHACCPに進めないとなると、いつまでたってもHACCPは実施できなくなるので、実務上は意味のないものとなってしまう。

米国のNACMCF (米国食品微生物基準諮問委員会) が1997年に採用した「HACCP 原則と適用のガイドライン」には、PRPの具体例として、施設、原料供給者のコントロール、仕様書、製造装置、クリー ニングとサニテーション、個人衛生、訓練、化学物質のコントロール、有害小動物のコントロールがあげられているが、これらだけに限られるものではなく、品質保証手段、標準作業手順書 (SOP)、ラベル表示方法、リコールの実施方法なども含まれるので、極めて広範囲な内容のものである。

このPRPの例の中の、工場内のクリーニングとサニテーション、個人衛生、有害小動物のコントロールなどは、いわゆるGMP (適正製造基準)に含まれるもので、従来から、工場全体に関する危害要因はこのGMPによりコントロールされてきたし、これからもこのことは変わらない。

一方、個々の工程や原料に関する危害要因については、GMPでコントロールするのは不適切との考えからHACCPが導入されたのであるから、そもそもHACCPとGMPとは概念が異なるものである。

HACCPとは、その頭字語が示しているように、HA (危害要因分析) を行って (原則 1)、HACCPでコントロールしなければならない危害要因があれば、その工程をCCPに決定してコントロールするというものである (原則 2)。もし、HACCP でコントロールしなければならない危害要因が存在しないのであれば (即ちCCPが存在しない)、工場の食品衛生は GMPのみでコントロールすることになる。

このように、ある工程や原料に存在する危害要因をGMPでコントロールするか、HACCPでコントロールするかを仕分けるのが危害要因分析であり、その分析結果に基づきGMPかHACCPかに別けてコントロールするのである。このことからもGMPはHACCPの前提条件ではないことが分かるし、GMP が完全に実施されなくてもHACCPは実施できるのである。

日本では、HACCP はGMPより高度な衛生管理手法で、ハード面の整備が必要なので実施には金がかかるものである、という間違った考え方が蔓延していて、HACCPの実践はなかなか進まない (HACCPという言葉はよく知られるようになったものの)。

HACCP、GMP、Prerequisite Programs のそれぞれの持つ概念を食品業界の関係者が正しく理解してHACCPを実践していくことが極めて必要である。

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