現象と真相の意外性

食品化学新聞 リレーシリーズ 2009年5月28日掲載

中山正夫 技術士 (農業・水産部門) 中山技術士事務所

◇ 鳥と音から

昔、日本農業新聞に連載されている「田んぼのたからもの」(みち草研究・農博の稲垣栄洋氏) の「鳥寄せの術」を読んだ。その内容は、われわれ技術者にとって、原因究明の反省材料の教えとなり得る興味深いものといえた。

その概略を記せば――
狩猟のための「鳥寄せ」法として、昔からその鳴き声に似せた笛を使って鳥を集めたもの。ところが、近年はわざわざ笛を吹かなくとも、耕運機にエンジンをかけるだけで、ムクドリ、サギ、カラスなど鳥たちが群がってくるのが見られるという。

音質と音階が全く異なる鳥笛と耕運機の騒音がなぜ同じ「鳥寄せ効果」 を持つのか。もちろん、単純にそういうものかと考える人や、現象自体を否定する人もいよう。

この真相は、土の中に潜んでいたミミズ、カエル、ザリガニなどが耕運機で掘り起こされ、それらを餌とする鳥たちが集まってくるに過ぎないのだ。

つまり、鳥たちは、いつのまにかエンジン音を「ここに餌あり」の合図と受け取る学習を身につけていたわけ。

―とあった。

それはロシアの心理学者パヴロフによる有名な 「条件反射」の研究。つまり、イヌに特定の音と餌を反復して与えると、その音を聞いただけでイヌは涎 (よだれ) を流す。つまり、学習?音を餌に短絡させた結果なのだ。

◇体験知識と思い違い

前記の事例から、かつて読んだ講談社発行「ブルーバックス」の一冊 「統計でウソをつく法」を思い出した。

それはアメリカ統計学の実務的な研究者ダレル・ハウの著作 (高木香玄氏訳)にして、初めから、終わりまで「騙されない」発想や事例がギッシリと詰まり、読者を飽きさせない。

そのなかでも「シラミは健康のもと!」なる好奇心をそそる題材のお話は「ものの見方と考え方」に大いに役立つところ。ここでは南太平洋上に浮かぶニューへプリデス島の住民が主役だ。

彼らはながき生活の実体験から「シラミは健康人にはついているが、病人には滅多にいない」との事実を知っていた。そのため、身体にシラミがついているのが「健康の証明」とまで、誤った結論に導いてしまったわけか。が、「事実は現象 (?) よりも奇なり」。 病気の原因はシラミ自体でなしに、シラミが媒介する熱病によるもの。熱病にかかると患者の体温が高まるため、シラミは患者のアツアツ状態の体から逃げ出すのが「真相」なのである。

―いやはや、起きた現象を表面だけから見、それにより結論づけるの 「危険がいっぱい」、シラミの存在が「不潔」とか「急性感染症の発疹チフスを伝染する」という常識を持つ現代人にとっては、笑って済ませられよう。が、こうしら空虚な過ちは今日でもありそうだ。

◇ 呈味成分と異物

かなり前のこと某食品輸入業者よりコクがあっておいしいという無農薬の外国茶の評価を依頼された。 添付されたアミノ酸チャートを見ると、通常の茶とは異なる成分 (ピーク) がある。ところが、その乾燥茶葉表面にはなにか黒っぽい融着物が見られた。顕微鏡観察すると、明らかに小さな虫が少なからず融着していた。結果として乾燥により融着した虫の成分がアミノ酸チャートに上積みされた可能性大と判明したわけ。

犯罪捜査でも、現場に残された証拠があっても間違えの解釈をしたならば、真犯人を取り逃がしてしまう。食品の市場調査や新商品開発でも然り。常に第三者的な目で確かめ、ことを運びたいものである。

誰しも人は「思い込み」やすく、これを「思い違い」に発展させず、真相に迫らねばなるまい。「捕えてみれば身内なり」の事例もあるのだから。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております