「天然」表示を考える

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2013.11.21掲載

横山勉 技術士(農業部門)横山技術士事務所

 食品にとって、天然・自然という言葉には大きな魅力が存在する。デジタル大辞泉では、天然を「人為が加わっていないこと。自然のままであること。(中略)、反対語→人工」とある。同じく、自然食品は「自然のままの食品。一般に、農薬や化学肥料を使わずに作った農産物と、食品添加物を含まない加工食品をいう」と記されている。確かに、人工との対比で天然・自然は、よいと感じるのが普通の感覚だろう。

 近年、「人工」で好ましくないことが、数多く起きた。環境ホルモンやダイオキシンでは、健康影響はなかったものの、強く不安を感じたものだ。BSE(狂牛病)は、家畜由来の肉骨粉を草食動物の牛に食べさせた不自然が原因とされた。ほとんどの人が「ガッテン」したに違いない。

 食品の場合、人工が合成に変わることも多い。農薬や食品添加物など合成化学物質が身体に悪いと聞けば、素直に信じても不思議ではない。GMO(遺伝子組換え作物)は、自然では生じない遺伝的な変化を人為的に起こしたものと聞けば、拒否する気持ちも理解できる。筆者は、これらの食品を「嫌われ者三兄弟」と呼んでいる。天然・自然のイメージから外れた存在である。

 本紙読者にとって、上記が間違っていることはご承知の通りである。科学的なエビデンスに基づいて判断してみよう。未知の化学物質の塊である通常食品を中央に置けば、農薬と食品添加物(指定添加物)は安全側に配置できる。数多くの安全性評価の試験を受けており、現状の検証もされている。ただし、かつて天然添加物と呼ばれた既存添加物は評価試験を受けていないものがあり、リスクが考えられる。アカネ色素が使用禁止になったのは記憶に新しい。GMOは通常食品と同等である。高リスク側に配置されるのが、いわゆる健康食品になる。天然素材でも、成分を濃縮したものや食経験のないものは、注意する必要がある。

 一般消費者が天然・自然を好むのであれば、商品アピールのために、謳いたくなるものだ。そうであっても、基本的に食品は自然・天然のものである。これらを強調して表示することは、避けなければならない。商品はもちろん、パンフレットやウェブサイトの表現も対象になる。

 ネットで、「天然 食品」をキーワードにして検索してみよう。かなり減少してきたと感じるが、多くのサイトがヒットする。天然塩に始まり、天然ミネラル・天然わさび・天然梅肉・天然アミノ酸・天然健康食品・天然酵母と天然のオンパレードだ。大部分は、根拠がないのによいと勘違いさせてしまう優良誤認といえる。

 ただし、客観的な根拠が存在すれば、天然またはこれに準じた表示ができると定められている食品もある。公正競争規約、業界団体が決め公正取引委員会の認定を受けた自主ルールのことだ。そのような食品例として、1)ハム/ソーセージ・2)醤油・3)凍り豆腐・4)養殖魚(ハマチ・マダイ・ヒラメ)について内容を説明しよう。

 多くはつくり方に関係している。1)ハム・ソーセージの要素は2点あり、一つはこれらを包む皮である。本物の腸を用いている場合、天然腸(ケーシング)と表示できる。また、自然状態で熟成させた場合、天然(自然)熟成とすることができる。2)醤油では、加温・冷却を行わずに醸造し、酵素や食品添加物不使用の本醸造醤油であれば、天然醸造と謳うことができる。3)凍り豆腐では、人工的に凍結させない場合、表示可能だ。4)養殖魚が存在する場合、該当する。この場合、天然ハマチと表示できる。もちろん、養殖魚が存在しない魚種には使用不可である。この他に、はちみつ・ローヤルゼリー・削りぶし・みそ・包装食パン・即席めん類・ミネラルウォーターなどに、条件つきで天然およびこれに準じた表示が認められている。

これらの天然表示に、意味のある品質的な差異があるのだろうか。天然腸と天然魚くらいと考える。天然の方が劣ることもある。天然醸造醤油であれば、冬から春に製麹・仕込みを行ったものが良質である。これに比べ夏から秋仕込みは品質的に劣る。人為的に温度管理や技術的制御を行っている場合、常に理想的な管理ができる。どちらが望ましいか明白ではないか。

天然などを求める消費者側にも反省を促したい。不適切な表示の商品を見分ける眼力を持ちたいものである。不健康な生活をしているのであれば、良質の食品を摂ったとしても補える訳ではない。健康には、運動・栄養・休養の三要素が必要になる。適度な運動と休養に配慮し、栄養バランスがよく・腹八分目の食事といった自然な生活を心がけたい。

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