油脂加工製品と不凍素材の開発

講演記録 2020年2月15日例会

講演者  大西透氏(株式会社カネカ Foods & Agris Solutions Vehicle新規素材企画グループ) 
技術士(農業部門、当センター会員)

まさに技術士の仕事の発表らしい、技術的クライマックスも含んだとても内容の深い講演でした。大西氏は、大学学部の間はアメフトの選手としてすべてをアメフトに打ち込んで戦略論理とカラダの訓練とのすばらしい青春を送られた。食品開発への道も精密な調査と作戦を建てての未知への挑戦であったようだ。

1 .業務用耐熱マヨネーズの研究・開発

入社して3年の時、会社が今まで扱っていなかったマヨネーズの課題を言い渡された。
超大手がいる中へ参入するために、加工特性に特徴のあるマヨネーズを狙った。卵の乳化に頼らない固形のマヨネーズを作った。開発の成果は、10件の特許出願となった。
開発から、製造方法の解決そして製品のばらつきの解消、ユーザーへの売り込みまで川上から川下まで経験させてもらった。

製造のばらつきの原因やメカニズムは、食品ならではだ。マヨネーズのばらつきもそうだった。マヨネーズは、特異な物性の食品だ。油が70%のO/Wエマルジョンで、酢が入っているので殺菌しないのだ。それでも賞味期限に影響する酢に強い細菌の研究もした。卵による乳価は微妙で難しい、食塩が入るとすっかり状況が変わってしみ乳価が崩壊する。安定化させる組成をさんざん探した。一方、乳化させる機械にも知識が必要で、量産化できかつ現実的な乳化機の情報を集めた。食品関係からは似たような仕組みのものしか集まらなかったが、視野を食品以外へと向けるとヒントになる仕組みが見つかって導入を図った。

食品加工とは、原料の組成が季節によって変化する。卵は、夏と冬で乳化力が大きく異なった。これは、夏場は冬に比べてタンパク含量が低いためと考えられる。対応できないと商品は作れない。乳価時の温度を0.1℃のレベルで制御して、夏冬の相違を乗り越えた。

ユーザーへの売り込みも経験した。

ユーザーと言っても食品工場なので原料として納入する訳だ。そこで納品書とともに丁寧に書いた送付書を付け、自分の署名もつけた。これは自分でももらった経験があり「製造者の思い」を感じたので自分でもやったところ採用率が2割から4割へと向上して嬉しかった。

開発はニッチをねらう。大手の作りたがらない混合マヨネーズもせっせと開発した。一番人気は。辛子マヨネーズ。チーズマヨネーズ、そして、ソーセージにかけて加熱してもソーセージの油で流されない耐熱性のあるマヨネーズなども開発した。酢の種類も特徴のある酢を使用するなど差別化作戦を続けた。

2.業務用マーガリン・ショートニングの研究・開発

 この分野の仕事は、社会の必要に迫られて短期に一気に開発した仕事だ。すなわち、
バターが不足した、あるいは、震災で他社を代替して製造する必要性に見舞われた、さらにトランス酸の有害性が問題になるなど、いずれも短期開発が求められた。

 マーガリンは、乳脂肪を他の油脂、現実的には植物油脂に置き換える食品。香りに着目した開発は今までもあったので、着目点を呈味においた開発を行った。中鎖(C10~C14)脂肪酸のバランスを調整して呈味をバターに近づける狙いだったが、バターの半分を置き換えるのは大変苦労した。

 「油の練り込み」は、パン、菓子類の魅力アップに重要な技術だ。ボリュームや生地の浮き、そして食感を変える要素だ。いずれも高い温度での加熱で作られ、加熱中のどの温度まで油が固形を保って水分蒸散を防ぐのかが、上記要素の技術的ポイントだ。
 トランス酸の低減化技術もエステル交換などによって極めて短期で達成した。

3.新規事業「不凍素材」の企画・開発

「不凍」という言葉は誤解をまねく。凍結しないのでなく、氷の結晶が大きくならず、氷結晶が細かく凍結する。微生物からの不凍タンパクも知られていたが、探してみると食品の中にもあった。カイワレ大根やエノキダケに含まれていた。コストの安いエノキダケの抽出液を混ぜることによって「不凍」食品を作ることができる。トレハロースと比べても効果が高かった。

不当素材によって、凍らせてもホイップクリームはひび割れず、水分蒸散も防げ、スポンジに混ぜると解凍後も柔らかさが保てる。クリスマスケーキの業界で広く使われるようになった。さらに通常のケーキ類に使用が広がり、冷凍での運搬・保存など大きなコストダウンと量産に道を開いた。

 和菓子にも大きな効果があった。「餅」に混ぜて冷凍すると解凍後でも粘りが十分にあって美味しそう。コントロールは堅くなってしまっていかにも古くなっている。講演とともに実際の食品も試食しながらのわかりやすい講演となった。どら焼きもスポンジの部分も中の具も冷凍しても堅くならず解凍後美味しく食べられる様になった。

また餡に不当素材を入れて凍結すると氷結晶が小さいので、冷凍したままでも歯が立って食べることができる。今までなかった和菓子の提案ができるようになった。
 不凍素材の洋菓子から和菓子へと広がり食感が大切で賞味期限も短い食品の流通に大きなインパクトを与えた。

文責 食品技術士センター