地方自治体における災害備蓄食料の課題と対応策

森 民夫     元全国市長会長・前長岡市長 

第1部 新潟県中越地震と長岡市の行政対応事例

1.長岡市の概要

 長岡市は新潟県の中央部にあり、人口268千人で新潟県第2の都市です。毎年8月に開催される三尺玉の長岡花火や、司馬遼太郎の「峠」に出てくる長岡藩家老の河合継之助や第2次世界大戦時の山本五十六で有名です。

  ちなみに自分が長岡市長時代にハワイの真珠湾で、終戦70年の2015年8月15日に鎮魂の意味で長岡花火を打ち上げたことがあります。アメリカでは山本五十六の評価は「彼は軍人であり政府の決めたことを実践しただけである」とのことでした。軍隊は政府がコントロールしており、軍隊が政治を抑圧するクーデターはアメリカでは一度も起きていないとも言っていました。

2-1.地震発生から応急対策まで

平成16年(2004年)10月23日に発生した「中越地震」はM6.8(震度7)死者68人で発生地区に近い旧山古志村がヘリコプターで全村避難(牛も含む)した事が全国で報道されました。

1)避難所の開設;

 当時私は長岡市市長として自宅にいましたが、発生と同時に自転車で市役所に行きました。最初に手掛けたことは全市内の避難所の開設でしたが、指定避難所のほかに任意の避難所が多くできました。

 市指定避難所はすぐ近所の職員がカギを保管しており、最初に避難所に着き避難
所を開錠した職員が部署や役職に関係なく責任者になり、現場対応の業務を担当する規定になっていました。その時に現場対応力のある人材を見つけることが出来たことは大きな発見でした。

2)避難所の状況

①避難者数;50,100人 ②避難所数;125カ所(指定避難所;73カ所、その他の避難所;52カ所)

3)避難所での行政の対応状況

 避難所の運営を円滑に行うためには、現実に統制の取れた対応は困難であり、現場の状況に応じた決断が重要でした。

① 災害対策本部の責任は責任者の配置と食料・水・物資の調達と配分です。
② 現場で判断せざるを得なかった実例

  • 被災者同士のトラブルの調整
  • 派遣された医師等への対応
  • ボランティアの仕事の提供と配置
  • 賞味期限切れのおにぎりを配布するか否か等の判断
  • アレルギーを持つ子供への対応
  • その他多数

2-2 避難所での食料に関する問題発生事例

・ 食料の目当てに被災者以外の住民が来ることを拒否出来なかった。
・非常食料の配布について;備蓄してあった非常食を配布しましたが、中には賞味期限の切れた食品もあり、配布するか否かが問題になり現場の避難所の責任者の判断で配布しましたが、マスコミの反応は賛否両論でした。
・アレルギーを持つ子供への対応が大変でした。

3.応急仮設住宅の設置と現場での対応状況

3-1仮設住宅建設状況

① 建設箇所;20カ所 ②建設戸数;1,809戸 ③2004年11月24日入居開始   ④2007年12月完全退去完了
応急住宅の開設・運営・終了でいろいろ新しいことに取り組み実践しました。

(その1)旧山古志村の町内単位で入居し玄関も向い合せとし、町内単位のコミュニティを大切にしたいと考えました。

(その2)応急住宅に床屋を開業、当初厚労省はダメとの判断でした。

(その3)「老人介護」デイサービスのサポートセンターも開設しました。
       高齢者支援が重要と考えて設置し、お陰で老人の孤独死がなくなりました。

(その4)応急住宅は1世帯当たり29.7㎡(約9坪)でしたが、その後その基準は廃止されました。ちなみに応急住宅は入居期限付きですが無料であり、住みやすいので退出期限を設定しないと管理できない状況になります、(期限はまたその都度必要に応じて変更されます)

4.住民パワーによる復興

(その1)山古志村のお母さん達が運営する「食堂」が開設されました。
(その2)住民の総意と負担でバスも運行され、素人が営業しました。
(その3)市民が打ち上げた復興祈願の花火「フェニックス」
   市民から募金を集めて実施しました。歌手平原綾香さんの楽曲に合わせて3分間花火が打ち上げられました.

5.長岡市における防災対策の強化

 長岡市では中越地震の経験を踏まえ、下記の施策を新たに整備しました。
(1)「災害発生直後は個人から救援物資は受取らないこと」と明記した。
(2)防災物品の備蓄(地区防災センターの整備)
(3)避難所(学校体育館等)環境整備
(4)災害を想定した中学校の建設
(5)中越市民防災安全大学の開校;「中越市民防災安全士」の資格認定
(6)長岡市市民防災公園の整備;トイレ

第2部 災害備蓄食料に関する政策と課題

2-1非常食料の実態と課題

・災害備蓄食料に関する関係法令は名称も規定(備蓄量・内容等)や具体的記述もない。
・個人のアレルギー対応は必要不可欠であるが、詳細規定・マニュアルはない。
・「備蓄の量&基準(パン・ラーメン・乾パン等)」は妥当性の確認が不明確である。
・「乾パン」は喜んでもらえない・・・・ほとんど食べる人がいない。
・非常食の備蓄計画は各自治体で決定される(粉ミルク等)
・「水害」と「地震」では非常食の対応が異なる。
・「個人の備蓄」が絶対必要である。
 (不具合発生事例)真空パックのおにぎりは温めたらネバネバしており、衛生管理が不十分な食品もあった。

2-2 長岡市の事例

1)災害用備蓄食料について;

「市民備蓄」「流通在庫活用」「行政による備蓄」のバランスが大切です。
① 市民の家庭内備蓄(3日間分は必要・・・行政は当てに出来ないと思う必要がある)
② 流通在庫(スーパー・コンビニ等)は全て拠出してもらった。
・スーパー・JA等と事前に協定を結んでおり、買い上げ価格は店舗の販売価格と同じである。
・自治体としての非常食の備蓄は限界があり、「流通在庫の活用(スーパー&コンビニ等)」の活用が必要不可欠です。
・行政による備蓄;法的根拠は無く、各自治体によってバラバラの状況です。

2-3 民間・個人としての対応

① 「米粉のクッキー」を民間とタイアップして開発し、その後年々売上が上昇している。すべてアレルギー対応であり、現在東京都は長岡市から非常食として購入しています。
② 日常食を非常食として備蓄することが必要であり、「災害食」「防災食」「非常食」は全て同じであり、日常食も非常食も区別する必要性はありません。
「美味しいもので普段食べているものを災害食とし、自宅で備蓄してローテーションすることが大切です。」
③ (一般社団法人)防災安全協会から長岡市の食品メーカーの「アルファ米」が「日本災害食認証」の認証と受けました。また、2018年の災害食大賞には中越地震の「アルファ米」と東日本大震災の「わかめ」の災害食大賞を受賞しました。

2-4長岡市長としての経験からのコメント

① 行政の対応には限界があり、個々の住民が家庭での備蓄が必要不可欠です。
② 災害は刻々と変化しており、現場の責任者が判断することが多くあります。
③ 非常食は配り方と配り手の確保が問題となります。

以上