成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント ⑪ アイデアが決め手。厳しい競争を勝ち取ったアピール法 (成功事例・炊飯油)

食品と科学 VOL.56.NO.9 平成26年8月10日発行

鈴木修武   鈴木修武技術士事務所 

1. 炊飯油の開発の経過 

 開発のテーマは離型油を開発した昭和50年代後半に、コンビニのベンダーによく出入りした頃に生まれた。その時におにぎりも細々と生産していた。弁当のための大量炊飯でその間隙を縫って生産していたと考えられる。その時はサラダ油を使っていたが、当時から炊飯器にごはんが付いてそれを掻き出すのに一人付いていた。要望があり喫茶店で打ち合わせたが、関東圏での使用量はせいぜい10缶/月程度で生産量として少なく、工場の稼働量がなかったが、開発テーマとして常に考えていた。

 平成に入り食品製造業の中でも特に製菓、製パン、惣菜業といった分野では焼く、炒める工程に離型油が利用されていた。食品を大量に調理するには不可欠な原材料である。炊飯ビジネスは外食産業に受け入れられ急速、確実に市場を広げていった。コンビニやデリカなどの炊飯関連部門や大手の炊飯業者は自動炊飯装置を設置し、省力化を図った。おにぎり、すし飯などを製造する炊飯システムは釜離れやほぐし、成形機を円滑にするために離型機能を持った専用油を必要とした。一般に大量炊飯では鍋や容器への米粒の付着、同志のべた付き防止にサラダ油を添加していた。しかし、期待する程の離型の効果がなく、添加量を増やせば食味を低下させ悪循環を招いた。炊飯用油に求められる機能には分散性、最適添加量、保水性、テクスチャーなどであった。

2. 炊飯油の実験方法と結果

 長年実験していたがなかなか商品化できなかったが、2つの転機があった。
 食品工場より再度の要望があり開発テーマに挙げられた。電気炊飯器で実験したが望ましい結果が出なかった。研究所が移転し機械関係の実験者になったときに、生産現場ではガス炊飯器ではないかとの発想でガス炊飯器で試験することにした。ガス炊飯器は火力が強く、分散が容易で実験が促進された。このガス炊飯器に替えたアイデアが1つの転機であった。

 水分、油分は測定に時間が掛かりその測定が実験の制限因子であった。測定結果が出るまでに2~7日掛かり、一週間の実験は10点以内しかできなかった。

 炊飯の水分、油分を測定した人は分かるが、測定は非常に難しく、油分は0.1~1%で正確に測定しないと実験にならなかった。

 ドレッシングの商品開発を行った経験から油溶性のパプリカ色素をすすめた。色素を添加して、分散した実験だけを分析すればよく、油溶性色素の添加で実験が飛躍的にスピードアップできた。処方を組み実験し、即良否がわかった。油に色素を添加したアイデアが2つ目の転機であり、現場の技術者や担当者にアピールできた。

 その一例を図1に示した。サラダ油は添加直後に撹拌しても凝集性が強く沸騰中もほとんど混合されず、水の引きと共に縦の分布にとどまったた。炊飯後に撹拌しても油分の多い部分と少ない部分があり、鍋からの離型性が悪かった。

図1 炊飯油とコーン油の炊飯前と炊飯後の分散状態
(分散状況を見るためにβ-カロチン添加)
(下は御飯を鍋から取り出し観察した写真)
野本健史ら:「豊年炊飯油」 食品の包装(1994)より

写真1 炊飯油(左)とコーン油(右)の飯粒の表面写真
いずれも食用色素で着色 ホーネンの資料より

 炊飯油は大豆レシチンの効果でより均一な分散状況になり離型した。炊飯油は火力の対流により乳化して鍋全体に分散し、かつ米飯の1粒1粒に均一になったと考えられる。大豆レシチンと既存の乳化剤の組み合わせで特許も成立した。実験室は卒業し、現場試験を計画した。いきなりの現場は危険があり、大手炊飯機メーカーで試験した。水分と油分のデータも色素の分散状況と同一であった結果を図2と図3に示した。

図2 炊飯油とコーン油を添加した炊飯の水分
■ 炊飯油 □コーン油
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

図3 炊飯油とコーン油を添加した炊飯の油分分散状況
■ 炊飯油 ▢コーン油
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)より

 油に色素を添加した炊飯油とサラダ油で行い、立会い全員が明らかに炊飯油の分散を認めた。以前に現場の担当者は実験した試料が会社の実験室で分析されデータを出して報告したが疑っていた。現場担当者が色素の濃淡を確認でき試験試料としたので納得してもらえた。このアピール方法は有効と考えて以降の現場試験に使った。同じ品質でも現場の担当者の賛同を得られるか大きな違いと実感した。

 さらに官能的な試験結果を表1に示した。無添加と炊飯油1%添加は差がない。無添加、炊飯油1%添加と炊飯油2%、3%の比較では危険率5%以内で炊飯油2%、3%は評価が低かった。この結果より、炊飯油を添加した米飯は1%以下の添加が望ましいことがわかった。

表1 炊飯油の官能試験評価  
 試料 嗜好レベル 評価  
無添加 0.75  
炊飯油 1% 0.56  
炊飯油 2% -0.41  
炊飯油 3% -0.91  
野本健史ら:「豊年炊飯油」 食品の包装(1994) より

 その後、米飯を放置すると老化か硬化か判明できないのでテクスチャーの経時変化を測定した。その結果を表2に示した。炊飯油添加の15分後A1の面積積分値は5.07で、炊飯油無添加の6.66に比べて約25%面積の積分値が小さいので咀嚼によるエネルギーが小さい。すなわち、炊飯油添加の方が柔らかいと言える。また、4時間経過後、炊飯油添加A1の面積積分値は6.66であり、変化率(6.66÷5.07)が約1.3倍であった。

表2 室温における炊飯油添加によるテクスチャーの経時変化  
  放置時間 /A  
炊飯油
1%添加
15分 5.07 2.1 0.41 0.1  
1時間 5.12 2.04 0.4 0.92  
2時間 6.09 2.68 0.44 0.93  
3時間 6.54 2.74 0.42 0.66  
4時間 6.66 2.84 0.43 0.64  
炊飯油 
無添加
(コント
ロール)
15分 6.66 2.89 0.43 1.12  
1時間 7.71 3.6 0.47 0.82  
2時間 8.02 3.71 0.46 0.87  
3時間 9.41 4.44 0.47 0.66  
4時間 12.15 5.39 0.44 0.33  
=1回目の咀嚼によるエネルギーの積分値  
=2回目の咀嚼によるエネルギーの積分値  
/A=凝集性(食品の形態を構成する内部的結合に必要な力  
=付着力(食品の表面と他の物質の表面が付着している状態を引き離すに要する力)  
野本健史ら:「豊年炊飯油」食品の包装(1994)より  

一方炊飯油無添加では、15分後A1の面積積分値は6.66で、それ以降放置時間の経過とともに大きくなり4時間後には12.15を示し、変化率(12.15÷6.66)も約1.8倍であった。これらの結果より、炊飯油を添加すれば米飯は無添加に比べて柔らかく、時間経過しても硬くならなかった。2回目の咀嚼A2の面積積分値は、炊飯油添加、無添加もA1と同じ傾向を示した。

 また、炊飯油の被覆形成が水分の蒸散抑制に関与しているか水分変化を測定した結果、無添加区は添加区より約5%減少し、添加区は水分の蒸散が少ないと言える。

 これらの試験より、おにぎり用米飯に炊飯油を使うと釜ばなれが良く、油も均一に分散して官能的にも良好であった。さらに米飯の硬化も防ぐことがわかった。また、おにぎり成形時に成形機に付着しないので、歩留まり向上をもたらした。他の試みとして筆者が澱粉部門で味噌を扱ったことがあることから味噌用炊飯油の試験もした。

 味噌用原料として一般にウルチ米を精白して用いているが、一部には価格の安い他用途米(古米、輸入外米、陸米、未熟米等)やくず米が利用される。今回はこの未熟米にスポットをあて製麹管理を容易にし、品質の良い麹を作り、味噌として効率のよい製麹をえるために離型効果を目的とした。

 原料処理工程は米の浸漬⇒水切り⇒蒸し⇒放冷⇒種付け⇒床揉み⇒引っ込み⇒製麹からなる。試験区は、未熟米炊飯油1%添加区、未熟米無添加区、精白米区の3区で実施した。それぞれの米麹の酵素活性を表3に示した。

表3  米麹における炊飯油添加による酵素活性
  α―アミラーゼ活性 プロテアーゼ活性
pH3 pH6 pH9
未熟米1%炊飯油添加 480 486 293 23
未熟米1%無添加 321 400 179 16
精白米 400 455 19 45
 野本健史ら:「豊年炊飯油」 食品の包装(1994) より

未熟米炊飯油1%添加区のα-アミラーゼ活性は、未熟米無添加区の約1.5倍、精白米区の約1.2倍の高い酵素活性を示した。プロテアーゼ活性も同様であった。この作用は炊飯油が米粒のデンプン粒表面に疎水性の皮膜を作り安定した水分を保ちながら、米粒の粘着防止に働き、過剰の水の表面糊化を防止することになる。すなわちベタつき防止の過剰の水分の内部への浸透を防ぐのではないかと推定した。味噌を作った結果を表4に示した。未熟米に炊飯油を添加すると精白米と同様な良好な外観、食感の分析値を示した。未熟米無添加区は、一番不良であった。これらの実験は成功したが、おにぎり用炊飯油に特化し販売には至らなかった。

表4  味噌の炊飯油添加における効果
         
    未熟米1%炊飯油添加 未熟米1%無添加 精白米
外観 良好 不良(暗い) 良好
香り 良好 不良(アルコール臭あり) 良好
食感 良好 不良.米粒あり 良好
アルコール(%) 0.26 0.79 0.37
直接還元糖(%) 7.7 7.7 7.7
全糖   (%) 15.5 3.8 7.5
ホルモール態窒素(%) 0.3 0.38 0.38
全窒素(%) 2.55 1.84 2.18
酸度Ⅰ.ml 13.3 13.4 12.1
  Ⅱ.ml アミノ酸 15.1 11.8 11.8
pH 5.02 4.85 4.85
食塩(%) 10.2 11.1 12
 野本健史ら:「豊年炊飯油」 食品の包装(1994) より

3.販売促進の経過とアピール法の勝利

 その後、この炊飯機メーカーの担当者を講師に招き、炊飯機、米や業界情報を講義してもらった。やはり現場もプロであり、より新しい情報を炊飯現場や関連機器、関連原材料、米関連等の最新情報を展示会で収集しなければならない。

 販売と販売促進であるが、業務用商品は現場で行ったデータ資料が必要である。生産現場での試験が必要となるがなかなか試験してくれる製造者がなかった。メーカーは生産に追われて余力なく、失敗すれば生産計画が狂うので営業での懇意のメーカーは必要であった。幸い首都圏で協力メーカーが見つかり、生産現場で実証された。現場試験の色素による確認は、水分、油分の資料がなくても一目瞭然であり、現場を納得するのでは効果があった。

 炊飯油の商標は今にして思うと非常に良かった。この商品を知らない営業マンや問屋のセールスは、持って行く顧客先がわかった。

 試料缶に油を詰めて支店、営業所に配り、顧客に持って行ったが販売にはつながらなかった。研究員は朝から晩まで試料缶作りに翻弄され実験はできず、そこで工場にパートを雇って試料缶作りを委託した。

 一方、調理師学校の先生の紹介で外食産業の中華料理店に行き、チャーハンへの炊飯油の利用を試験したこともある。チャーハンは米飯をほぐしながら調味料を添加し、4~5分で調理することが求められた。油を添加していない米飯はほぐしに2~3分掛かってしまうことからほぐしが容易な炊飯油の採用になった。炊飯に布が使われて炊飯油を使うと油の洗浄が面倒であったが採用された。    

 この店から炊飯油の注文が来たが、問屋には在庫がなく、調整に苦労した。問屋は汎用性のない炊飯専用の炊飯油に過剰在庫の恐れがあった。そこで、近くの産業給食センターを探した。このセンターは1000~1500食の中堅であった。米飯が箱に付着し、4~5名の従業員が弁当箱の洗浄に必要であったが、機械洗浄だけで済み非常に喜ばれた。外食産業の皿の洗浄も試験した。米飯が剥がれないと皿に澱粉が着くので、デンプンーヨード反応で青色に発色させて写真に写し、販売促進グッツにしたが成功しなかった。

 コンセプトは良かったが新商品を売るのにいつも苦労した。部下が現場試験した時のベンダーとは別のベンダーに電話してアポイントを取り、納入にこぎつけた。この時も、絶対難しいと言われた大手のベンダーへのアプローチで、関係者からの反対があったが、自己責任で突破した。このベンダーに納入されたことによりグループ各社に販売出来た。その部下には自分が主人公になって主体的に動かないと新商品は出来ないよと教えた結果だと信じている。商品開発は作ろう、売ろうとする気概や執念が必要と思われる。同業他社や添加物、加工油脂会社から同様の商品が商品化されて市場を活性化した。やっと市場に出して定着したときに、同じ考えの商品が出ることは先発者としては残念でもあり、一方、市場が活性化するのは喜ばしいことでもある。

 その後、コンビニのおにぎりが売れ出し、私たちの開発部隊は平成のおにぎりブームの影の仕掛け人であると自負している。

4.おわりに

 この成功は何が売れるか売れないかを考えさせられた事例であった。今から思うと顧客のニーズと現場の使用者の説得が大切であったか。

開発者達は自己中心的な集団であるが、顧客をいかに説得するか納得してもらうかである。開発商品が売れれば社内の賛同を得られ好循環を得て次に進めるエネルギーが得られる。
顧客のニーズ、便利さ、革新性や価格帯を頭で考え、実感し実行する勇気を経営者も開発者も持つことが大切ではなかろうか。

参考文献
1) 鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)
2) 野本健史、鈴木修武:お米をおいしく食べるための炊飯改良剤「豊年炊飯油」Vol.25 NO.2 p.61 食品の包装(1994)