透明ノンアルコール・ビールの存在感

食品化学新聞2020.02.13日掲載

 横山 勉 技術士(農業部門)[横山技術士事務所]

 2018年6月、ノンアル(アルコール)・ビールのカテゴリーに新しいタイプが加わった。S社製品である。無色透明で、容器もPETボトルである。コンセプトは「ランチや会議中の職場で、気兼ねなく飲める新感覚ノンアル・ビール飲料」。透明かつPETボトルなので、それが可能という。

 面白いと思った。従来にない斬新な考え方である。多くの支持があってもおかしくない。同時に、ささやかな違和感があったことも確かである。同業A社もPETボトルで追随したが、無色ではなく、色つきだ。そうであれば、職場で飲むのは、はばかれる。

 会社や組織勤務であれば、ブルーマンディーという方もおられよう。確かに1週間は永いので理解できる。筆者は自由業だが、ブルーマンディーである。月曜日が休肝日のため、酒類を摂れないためである。通常ならば、仕事が一段落した夕方から飲み始める。スタートはビール類で、日本酒に移る。酔えればよいのではなく、醸造酒の深みのある味わいが好きなのだ。多くのチューハイは甘く、ジュースのようで問題外。飲み放題の店に日本酒がないケースがあり、悲しい。その時は止むなく味わいが近い白ワインを選択する。

 ある月曜日、もらったノンアル・ビールがあった。ビールを飲んだつもりになるかも知れないと試してみた。昔の味に比べると、ずいぶん改良されている。それでも、明らかに異なる。当然だが、飲んだ後に来るフンワリ感は皆無で、余計に本物が飲みたくなったものだ。飲まなきゃよかったと強く後悔した。

 昨今、透明飲料がブームである。きっかけとなったのが、フレーバーウォーターであろう。J社の「桃の天然水」が先駆けだったように思う。透明ながら桃の風味がある不思議な感覚の飲料だった。この透明飲料市場に、新たな製品が加わった。紅茶やコーヒーにコーラなどである。通常、いずれも明確な色彩を伴う。これらを目隠しの状態で飲めば、通常製品と勘違いするかも知れない。

 常識からの逸脱には遊び心があり、確かに面白い。食品業に従事する技術者であれば、血が騒ぐ。食品には「色・味・香り・食感など」が備わっている。色は最初に受容する重要な情報である。通常品と間違えるような透明品をどうすれば、実現できるだろうか。基本は元の食品が持つフレーバー(香り)である。O社は、ビールを含む幅広い香料を揃えている。これに無色の呈味成分を加えればよい。一方、透明ノンアル・ビールは新規開発ではないようだ。既存品からホップと着色料を除いた構成になっている。ホップは着色に関与するのだろう。

 透明化により、どのようなメリットが考えられるだろうか。1回、試して驚いたなら、それで終了である。そもそも、かなり無理がある商品だ。落ち着いて比較すれば、透明飲料の不自然さ(香味)に気づいてもおかしくない。一般的な透明飲料のブームは続かないと思う。歯が着色しないというメリットは指摘しておこう。

 改めて、ノンアル・酒類を考察しよう。ビール類以外に、酎ハイや梅酒などが存在する。これらには、定義がある。1)アルコール0.05%以下、2)味わいが該当する酒類に似る、3)成人飲用を想定・推奨、である。筆者はこれらの必要性を微塵も感じない。それでも、継続して販売されているので、需要があることは理解できる。呑み会で、雰囲気を壊さずに参加というケースが挙げられる。
 3)成人を想定、について触れておこう。ノンアル・酒類は清涼飲料水なので、基本的に未成年が飲んでも問題ない。ただし、それを機会に本物の酒類に近づかないでほしいという願いがある。主要な販売先のコンビニでは、区別して陳列されており、未成年は購入できない。

 透明ノンアル・ビールに話を戻そう。販売はコンビニに限定されていた。当初は話題になり、品薄で入手が困難だった。問題は目標に掲げた職場における飲用である。他者に分からないとはいえ、壁は高かった。ノンアル・酒類を職場(就業時間内)で飲んだ場合、問題が生じそうである。清涼飲料水とはいえ、不謹慎との誹りを免れない。実際にそのようなトラブルが複数あったと聞く。結局、終売になった模様である。

 改めて、本商品を知った時に感じた違和感に戻る必要がある。そもそも、ビール類を飲んでおいしいと感じるのはどういう時だろう。決して、仕事中ではありえない。仕事を終えて、「お疲れさま」という状況である。スポーツや力仕事など、汗をかく場合はさらにおいしくなる。

 本商品は透明故に存在感が薄かったといえる。後からなら誰でもいえるが、コンセプトが間違っていたのだろう。それでも「やってみなはれ」の精神は極めて重要である。やってみて初めてわかることが実に多いのである。

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