新型コロナウイルスの教訓と、これからの食品安全

 食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2020年4月9日掲載

 小川 洋 技術士(農業部門・農芸化学科目)
(㈱スズカ未来 マイラボ食品検査センター) 

はじめに

 かけがえのない小さな星、地球には、途方もなく多く種類の生き物が存在しており、これまでに発見・分類された生物種の数は約125万種類と言われ、地球上にいると思われる870万種類のうち、約15%の生き物にしか、出会っていないことになる。また、環境省の調査によれば、日本国内における絶滅危惧種は動植物合わせて3634種であり、世界中にはさらに多くの絶滅の危機に瀕した生き物がいるはずである。これらの生き物の絶滅スピードを速めた原因は、人間による、森林の伐採や開発、化学物質による環境汚染、乱獲や外来種の持ち込みによる生態系の破壊など、いずれも人間による仕業でる。但し、これらの数字は、動植物の話であり、微生物や、現在、世界を、窮地に追い込んでいる、新型コロナウイルスなど無生物のウイルスなどは、これらの数にカウントされておらず、地球の温暖化や、例えば、アマゾンの自然破壊などで、未だ発見されていない、ウイルス属が出現しても不思議ではない。なぜなら、地下数百メートル以上の粘土質から、新しいウイルス属が、発見されているからである。我々、人間は、これらの生き物や、無生物などと、このかけがえのない地球で、共存しており、決して、我々人間だけの所有物ではないことを、忘れてはならない。

非生物ウイルスと食品安全

 ウイルスは、ウイルス核酸(DNAかRNAのどちらか一方の核酸)と、これを包むタンパク質の基本構造をもっており、大きさは、一般的な生物の細胞(数十μm)に対して、その100~1000分の1、即ち、数十nmぐらい小さくて、電子顕微鏡のレベルである。また、ウイルスは、その粒子単体では代謝できず、生きた細胞内でしか増殖できないので、全てが、感染侵入型であり、一般の微生物のように、食品の栄養物を利用して食品中で増殖したり、毒素を産生したり、自己増殖は、出来ない代わりに、遺伝子を有するので、他の生物の細胞に侵入し、増殖し、宿主細胞の産生するエネルギーを利用する、大変な、厄介な、生物様非生物である。

 現在、世界を窮地に立たせている、新型コロナウイルス(属/仮称)は、ノロウイルス族のように、食中毒を引き起こすものでは無いが、ノロウイルス族と比べられないほど、まるで、「生物兵器」を想像させるほど、脅威な、ウイルス族である。なぜなら、強力な感染力をもち、潜伏期間が長く、比較的免疫力の有る、宿主細胞には、大きなダメージを与えず、弱いとする集団には、直撃し、猛威を振るう。このウイルス属は、今は、報告されていないが、其のうち、変異し、更に、強力なダメージを与える、非生物に変身するかもしれない。世界の食のグローバル化や人々の交流によって、どこに付着して、検疫をくぐり、上陸してくるかもしてない。

 それと比べると、食品に大きく関わる、ノロウイルス族(Noro virus/NV)は、食品由来感染症として、現在最も多く発生している、食中毒の犯人であるが、適切に対応すれば、完全に、防御できる手段が、確立されている。ウイルスには、感染宿主の細胞膜に由来する脂質二重膜をかぶって出てくるもの(エンベロープウイルス)とかぶらないものがあり、脂質二重膜であるエンベロープは、胆汁や消毒剤などに脆弱であるが、エンベロープを持たないNVなどは、抵抗性が高く、エタノールや塩素消毒にも耐性を示すため、浄化槽や下水処理場でも不活性化されずに環境水中に流入しやすいと考えられる。先に述べたが、食中毒の半数近くが、ノロウイルスの感染である。カキ、ホタテ、ハマグリ、赤貝などの二枚貝は、海水中のプランクトンを中心とした有機物を濾しとっているため、大雨などにより汚物の河川への流入などからのウイルスの流入などにより、貝類に蓄積され、国内産のカキの25%がノロウイルスを持っている報告もある。一般にカキ1個当たり、200個ぐらいのウイルス粒子をもっていると云われる。しかし、NVについては、ウイルス本体は、1968年に発見され、アメリカのノーウォーク(ノロウイルスの由来)で起きた集団下痢症の発見以来、その対応策は、やっと確立され、衛生的な取り扱いを遵守すれば、彼ら、NVとは、今や、共存することができる。

おわりに

 世界に、感染を広め、人類を窮地に陥れている、生命を持たない、「新型コロナウイルス属」は、我々、人類に、何を、教えているのであろうか。優れた頭脳を持つ人類も、核酸とタンパク質だけの超微細球の非生物の前に、成す術がないことを。取るに足らない主張の違いで、武力衝突を起こし、何千万人もの難民を窮地に立たして人類を、そして、このかけがえのない地球を、わが物と勘違いして、その破壊に気づいていない人類を、あざ笑っているように思えてならない。そうとは言っても、この新型コロナの撃退には、一人ひとりの良識が他人を守ることを最大の武器にしなければならない。 

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております