光の可能性を追い求めて ―食品の光殺菌―

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2020年9月10日掲載

                  久保 康弘   技術士(生物工学部門)
                   

 「地方創生」という言葉が世に出て10年以上経つが、現実にはなかなかうまくいっていない。そんな中で内閣府が「地方大学・地域産業創生推進事業」を展開している。

 これは、地方を担う若者が大幅に減少する中、地域の人材への投資を通じて地域の生産性の向上を目指すことが重要であり、首長のリーダーシップの下、産官学連携により先端的な研究開発や人材育成等を行う優れた取組を重点的に支援するというものである。

 徳島大学が参画する徳島県の「次世代“光”創出・応用による産業振興・若者雇用創出計画」も2018年10月に認定された。徳島大学等が有する地域の優位性を活かした光関連産業の振興と専門人材育成などに産学官連携で取り組み、可視・近赤外光だけでなく次に実用化が期待される「新しい光」を学び「夢のある未来社会」の創出を夢見る学生が日本全国や世界中から集まる「キラリと光る徳島大学」の実現を目指すということで、計画に基づいた取り組みが進んでいる。

 光科学研究拠点となる「ポストLEDフォトニクス研究所(pLED)」1)では、徳島大学が地域産業界と共にオープンイノベーションで実用化を見据えた次世代光源の開発及び応用研究に取り組むため2019年3月に設置された。可視光より短波長側の「深紫外」、長波長側の「赤外」「テラヘルツ」の3つの未開拓波長領域の光にアプローチし、各々の光が持つ特性を生かした新しい産業創出を目指している。

 食品に関係するところでいえば、深紫外光を利用した食品殺菌、赤外光やテラヘルツ波を利用した食品の品質評価や異物混入検査の研究等があげられる。ここでは深紫外光を利用した食品、特に「釜揚げしらす」の殺菌について、pLEDでの取り組みを簡単に記載させていただく。

 徳島県は農林水産物の宝庫であるが、しらすの漁獲量は全国でもベスト10圏内に入る。
 徳島県産の「釜揚げしらす」は無処理、無添加の製法であるために食感が良く、消費者志向に合致した商品であるが、それゆえに賞味期限が約3日間と短く、大都市圏での販路確立に至っていない。品質劣化の主たる原因が微生物にあり、これが抑制できれば賞味期限が数日ほど延長できる可能性がある。

 他の地域では殺菌剤(過酸化水素)や再加熱&脱酸素パッケージなどの処理がなされているが、徳島県としては非加熱処理で薬剤等の残留がない、深紫外LED光を利用した殺菌の可能性を産学官連携で追及している。

 特に280nmの深紫外LED光を釜揚げしらすに直接照射することによって、殺菌効果および増殖抑制効果が認められ、60 秒間の照射で有意な生菌数の減少が認められ,かつ照射から48 時間冷蔵保存後において増殖抑制効果があることが報告されている。2)
更には、青色LED光(405nm)との同時照射で、深紫外LED光単独の場合よりも更に短時間の照射で高い効果が認められた。3)

 現在は実用化に向けた応用研究として、殺菌装置の試作、製造現場での評価に向けて動いている。勿論、微生物以外にも品質劣化の要因は色々あり、その観点からも検討が必要と思われるが、少なくとも主たる品質劣化要因が解決できれば、より多くの皆様方に徳島県産の釜揚げしらすを味わっていただくことができる。それが徳島県内の水産加工業者の活性化につながるし、狭い1点ではあるが、地方大学・地域産業創生推進事業の理念を実践することにもなる。
 
 共同(受託)研究や学生・研究員の派遣、知財活用など、既存事業の強化や新規事業の種をお探しの企業の皆様方においては、ぜひ、このpLEDでの研究成果をご活用いただきたいと思う次第である。お気軽にお問い合わせいただきたい。
( kubo.yasuhiro@tokushima-u.ac.jp )

 pLEDでは、食品以外でも光に関する様々な研究が行われているが、光と食品という組み合わせは、実は奥が深く、色々な課題が解決できるのではないかと考える今日この頃である。

1) https://www.pled.tokushima-u.ac.jp/

2) 安友, 白井 他「釜揚げしらす由来分離株の系統解析および釜揚げしらすとその分離株に対する紫外線LEDの影響」, 防菌防黴誌, Vol.47, No.5, p.191-198, 2019年

3) 安友, 白井 他「紫外線および青色LEDによる釜揚げしらすの細菌の不活化」, LED総合フォーラム2020 in 徳島 論文集, p.81-82, 2020年

 徳島大学 研究支援・産官学連携センター 研究推進部門 特任准教授

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております