田んぼは魅力的なコンテンツ

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2020年7月16日掲載 

横山 勉    技術士(農業部門)[横山技術士事務所]

 都下国分寺市に日立中央研究所が存在する。所内の庭園に水が湧き出しており、野川の源流になる。ここから、小金井市・三鷹市・調布市・狛江市と国分寺崖線に沿って流れが続き、世田谷区の二子玉川で多摩川に合流する。小金井市の本河川に野川第一・第二調節池がある。大雨で水量が増えた場合、洪水を防ぐために水を流し込む施設である。普段は普通の野原で、子供たちがスポーツを楽しむ。

 ここに田んぼがある。毎年、苗作り・田植え・草刈り・イネ刈り・脱穀を行い、この米で収穫祭を開く。本活動は2003年施行の自然再生推進法に基づいている。全国42カ所(2018年3月現在)で行われている活動で、2006年にスタートした。目的は損なわれた生態系や自然環境の再生や保全などの推進にある。

  事業の主体は東京都であり、実際の管理は市民団体「野川自然の会」が行っている。隣に造成した湿地と共に、周囲の生物(植物・昆虫・水生生物など)のモニタリングを併せて行う。活動開始時に「田んぼは自然なのか」という意見があった。しかし、モニタリングの結果、湿地以上に多様な生物を養っていることが確認されている。

 筆者は本会の会員である。本活動に参加して、感じることがある。田んぼや周囲の自然から、改めて四季の変化に気が付くのである。活動には小金井市を中心に、小学生や家族の参加がある。田んぼにはメダカやエビ類・ヤゴ類・アメンボなど、周囲の野原にはバッタや蝶類などが多く生息する。子供たちはこれらが大好きなのだ。

 田んぼは人を集める強い力を持っている。周辺の住民に加え、野川を散歩する人・かつて農家だった人・ネットで探してきた人・会員の知人などが集い、交流が生まれる。この田んぼは自然再生だけでなく、地域コミュニティーの再生・活性化にも貢献しているのである。

 田んぼ活用の例を他にも紹介しよう。6次産業化プランナーとして、千葉県に伺ったことがある。米専業農家で直販に力を入れている。ここでも、田植えやイネ刈りの時は顧客に案内を出して一緒に行っている。周辺にあるのは自然だけという場所である。それがよいのだろう、千葉市や都内から多くの方が集まり、ひと時を楽しむ。イネの生育状況は随時ホームページにアップされる。田植えの参加者は田んぼに親近感がわき、イネ刈りにも参加したくなる。

 話は変わる。後楽園は岡山市にある日本庭園で、日本三名園のひとつである。大きく美しいが、その一角に田んぼ(井田:せいでん)が存在する。井田とは中国周時代の田租法で、これに倣って形を整えてある。6月の第2日曜日に、「お田植え祭」を行う。地元の保存会によるもので、男衆の太鼓と歌に合わせて、菅笠姿の早乙女が苗を植える。多くの観客が集まるという。

 都内文京区にも、日本庭園の後楽園があるのはご存じのとおりだ。岡山と区別するため、小石川後楽園と称する。実はここにも田んぼが存在する。区内の小学生が5月に田植え・9月にイネ刈りをする。日本庭園には四季折々の表情が存在するが、ここでは田んぼも一役買っている訳である。

 大きな規模の田んぼで集客する例もある。青森県田舎舘村の田んぼアートである。テレビでも取り上げられるので、ご存じの方が多いだろう。1993年、村おこしの一環として始まったが、現在では各地で開催されている。なお、2016年から田舎舘村では雪の積もった田んぼに幾何学模様を描く「冬の田んぼアート」も開催している。よいアイデアで、興味深い試みである。

 都会のビルでは、屋上を菜園として貸し出すことが行われている。畑に比べ、難易度が高くなるが、田んぼを造ることできる。ビオトープとする例もあるが、小中学校で導入する例が増えている。情緒面の効果に加え、ヒートアイランドの緩和といった環境面の効果が期待できる。

 星野リゾートにも触れておこう。栃木県のリゾナーレ那須で、田んぼや農業をコンテンツとする試みが始まった。農業を感じる食事や過ごし方を楽しんでもらおうという趣向である。都会に居住する者にとって、魅力ある取組みといえる。農家などが開催するグリーン・ツーリズムに比べ、ワンランク上のもてなしを味わえそうだ。

 身近に田んぼがない場合、個人レベルでも容易なバケツイネという取組みも可能である。野菜栽培と同じように、癒しと収穫の喜びを味わうことができる。上記のように、田んぼはいくつかの切り口からなる多様な魅力を備えている。検討すべきコンテンツとして、頭の引出しに入れておいてはいかがだろうか。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております