チョコレートと微生物

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2020年9月3日掲載

内藤茂三 技術士 食品・微生物研究所 

1. カカオ豆と微生物

 カカオ豆には、酵母、乳酸菌、酢酸菌等の微生物が存在しており、酵母が糖をアルコールにし、酢酸菌がアルコールを酢酸にし、乳酸菌が糖を乳酸、酢酸に変換される。また、カカオ豆自身が持つ酵素によって、タンニンなどの苦味、カフェインやテオグロビン等の苦味物質が変化する。こうした発酵工程でカカオ特有の風味が形成されていく。まず、カカオ豆の発酵の初期は、サッカロマイセス属等の酵母が優勢となり、ペクチン分解酵素を生産して、果肉の流動性を増すとともに、嫌気状態で果肉に包まれる糖質からエタノールを生成する。続いてラクトバチルス属等の乳酸菌が繁殖して、果肉に含まれる糖質から乳酸等の有機酸を生成する。最後にアセトバクター属等の酢酸菌が増殖して、酵母によって作られたエタノールから酢酸を生成し、pH低下を引き起こす。酢酸菌によって生成された酢酸はカカオ豆に浸透し、豆の発芽を阻止する。

 酵母が最初に出現し、次いで乳酸菌、酢酸菌が増殖し、最後に芽胞細菌が生育する。カビは発酵全過程で生育が認められる。カカオ豆発酵は5~7日で終了するが、この間に関与する微生物は酵母、乳酸菌、酢酸菌、カビであるが、その後の天日乾燥で酵母、乳酸菌、酢酸菌はほぼ死滅し、バチルス属細菌とカビが中心となる。平均してカカオ豆発酵7日以降に天日乾燥が始まり、10日目頃まで、バチルス属細菌とカビの消長が認められる。

 カカオ豆の品質を安定させるために、発酵工程における最適な微生物が検討されている。
最近では、微生物制御を行う方法としてスターターを使うことが奨励されており、この方法は酵母、乳酸菌、酢酸菌を使うものであり、酵母、乳酸菌、酢酸菌をそれぞれ別途培養して、発酵工程時にブレンドして散布するものである。これらの発酵は発酵初期の酵母によるアルコール発酵、乳酸菌による乳酸発酵によるカビ等の雑菌を抑制するものである。このように、カカオ豆の発酵は常在菌に依存しているため品質は大きく変化するので、カカオ豆発酵の研究で適切な菌株が選択された。

2.チョコレートと微生物

 チョコレート及びチョコレート菓子の国内市場は約5,000億円の規模に成長しており、菓子類の国内市場の約1/3以上を占めている。最近ではハイカカオブームが続き、更に市場が拡大している。このためチョコレート及びチョコレート菓子の種類は多くなり、近年は組み合わせが多くなりチョコレート及びチョコレート菓子は味の素材になりつつある。

 イギリスではキャドバリーの濃厚な味、スイスでは乳成分の多いトブラローネとリンジ、イタリアでは乳成分が少なく滑らかなバッチが人気である。カカオマスを加える時点で水分が多ければ出来上がりは柔らかく、焦がしたキャラメルの味になり、長い時間をかけた自然乾燥、高温で短時間乾燥させた時で味が変化するとともに微生物汚染の程度が異なってくる。このため、チョコレート製品で低水分及び低水分活性にもかかわらす微生物による変敗が生成している。チョコレートの製造工程は最終的な製品のミクロフロラに対して大きな影響はないと考えられる。製造工程の温度が60~90℃に達したとしても、微生物は低Awと高濃度の脂肪により保護される。最終的なチョコレートのミクロフロラは主として一次汚染のバチルス属細菌、二次汚染のサルモネラ属細菌, エルシニア属細菌、エンテロコッカス属細菌で形成されるが、主なチョコレート及びチョコレート製品の変敗はカビと酵母である。

 通常板チョコレートの微生物による変敗は水分活性(Aw)が0.2~0.5のため起こらない。
ベトシア属カビ、クリソスポリウム属カビ、ネオザートリア属カビ等の好乾性カビが、変敗した板チョコレート及びチョコレート菓子から分離されている。また、日本では輸入板チョコレートに白色斑点が生成し、クリソスポリウム属カビと同定された。本カビこれまで海外で多くのチョコレートより変敗カビとして検出されている。

 板チョコレートの微生物変敗防止は変敗が極めて少ないので原材料の選択と製造工程での二次汚染防止である。板チョコレートの場合は特定のカビや酵母が検出されているため、原材料由来の一次汚染菌を防止し、製造工程中で汚染される二次汚染菌を防止すると効果がある。

また、チョコレートケーキの表面の白色斑点はカカオ豆の発酵工程で検出されるカンジダ属酵母であった。

 

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