宇宙時代のアミノ酸

食品技術士リレーシリーズ

平井輝生    技術士(農業及び生物工学)(平井技術士事務所)

 私達は生まれた時からいろいろな生物と接触しているので、生物を見ても珍しく感じないが、何故地球には生物が居るのか、地球以外の天体にも生物が存在するのか、という問題については、まだ正確な解答は得られていない。

 地球外生命の存在については、人類は古代から興味を持っていたようである。ギリシャ神話でも天上に人と類似した神の世界があり、天上での様々な生活だけでなく、中には地上に降りてきて人と接触する話もある。わが国では、最古の物語と云われる「竹取り物語」で、地球上で育ったかぐや姫が最後に月からの使者に迎えられ、月の世界に帰って行く話が語られている。帰る先は天上という漠然としたものではなく、月という天体である点が外国の天上の物語と異なる。筆者は日本の昔話の中で、この物語が現世の定めと日本人の心を描いた最も優れた作品だと思う。かぐや姫は多くに人から愛され、誰からも惜しまれながら、月世界に帰って行く。現世には「別れ」がある。誰もそれを阻止できない。物語の最後は、帝もそれを聞いて悲しまれ、かくや姫が贈った不老不死の薬を富士山の頂上で焼くよう命じられる。そのため今でも富士山からは白い煙が立ち上っている(当時は活火山)、という話で締め繰られている。富士山は日本で一番高い山なので、頂上は月の世界に最も近い場所である。此処で薬を煙に変えて月にメッセージを送る。素晴らしいロマンストーリーである。

 二十世紀後半から宇宙探索が活発になった。探索の課題の一つに地球外天体に生命の存在か痕跡があるか、ということがある。その手掛かりとして、地球外の惑星や衛星に水が存在するか、そこにアミノ酸があるか、を調べるようである。水は冥王星の衛星に氷の形で存在するのではないか、と考えられているが、アミノ酸はまだ確認されていいないようである。実験室でメタン、アンモニア、水、水素を使って加熱、冷却と放電を繰り返して、ガラス器具の中でアミノ酸を作った例はあるが、生命体を使わないでアミノ酸からタンパク質
を作ることは簡単ではない。アミノ酸が発見されても直ちに生物の存在に結び付けることは出来ないのではないかと思われる。

 地球上ではアミノ酸は約五百種類ほど発見されているという。この中で、人を構成しているタンパク質のユニットとなっているアミノ酸は二十種類である。どのようにして五百の中から二十が選ばれて、重合して生命体に必要なタンパク質が出来たのであろうか、宇宙での探索ともに現に存在する二十種類のアミノ酸の存在意義と選択理由も知りたい気がする。

 私達は、空気や水と共にアミノ酸が無ければ生きられない。私達はこれを食品中のタンパク質から得ている。栄養として摂取したタンパク質を分解してアミノ酸に変え、アミノ酸を再構築して生命活動に必要なタンパク質を合成する。タンパク質は誠に不思議な化合物である。私たちの筋肉や内臓などを構築する材料として使われるだけでなく、酵素として生体内の化学反応を順調に進める触媒として働く。或はホルモンや血球となって生命活動を支えるだけでなく、水に溶けない脂質を包んで運搬する役目も果たす。タンパク質の活動は数えきれないほどあるが、アミノ酸単体ではこのような働きはない。その立体構造が重要なようである。

 タンパク質は変化に富んだ化合物でもある。卵や魚介類や獣肉類などのタンパク性食品を常温に放置すると、どんどん変性して食用に適さなくなる。これは化学的には反応性に富んで、酸化されたり、酵素分解したりするからである。化学変化は水が存在すると促進される。私達の体内でもタンパク質の代謝は常に行われている。これに伴う損失を補うために外部から良質のタンパク性食品を摂取しなければならない。乳幼児だけでなく成長が終わった成人も食べ続けなければならないのはこのためである。地球上の資源には限りがある。人類が長く生き続けるためにもタンパク性食品の利用を大切にしたいものである。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております