日本国のだし“昆布”

食品化学新聞 食品技術士リレーシリーズ 2018年6月28日号掲載

石田賢吾 (技術士農業部門)

 今年2月度の食品技術士センターの例会で、一島英治先生の講演「国菌コウジキン」を拝聴した。日本食の基本味を作り上げたのが「昆布・鰹節だし」であることから、「国だし昆布・鰹節」と言えるのではないかと考えた。
 2013年ユネスコ無形文化遺産に認定された「和食」では、この「だし」が基本の味である。今回は昆布に着目して、その歴史と最近の話題について述べてみたい。

昆布の歴史とだし
 昆布に関する文献は、奈良時代に遡り、正倉院の文書に見られる「ひろめ」や「えびすめ」であり、蝦夷地の産で縁起の良い物とされてきた。「本朝食鑑」によると「北海道松前産の昆布を越前敦賀に水揚げして若狭に送って加工し、京都に運ぶ」とある。
 古くから北海道で産する昆布が北前船で若狭に上げられ、加工され、富山の人達により、富山特産の薬と共に大阪、琉球、中国まで広く流通したという。
 このような古い歴史をもつ昆布と鰹節は、日本の代表的な「だし」として、世界的にも注目を集めている。フランス料理のだしである「ブイヨン」や「フォン」、中国料理の「湯(タン)」は、肉、魚などの動物と野菜、茸などの植物由来の原料を長時間煮だして作られる。
 一方、日本のだし原料の昆布は収穫後、乾燥した後3年間くらい寝かせる「蔵囲い」によって熟成させる。昆布も鰹節も、乾燥などの各種の工程と長時間の熟成を経て作られるが、だし引きはその風味成分を短時間で抽出して利用するところに特徴がある。

うま味物質の発見に寄与した昆布 
 昆布のうま味成分であるグルタミン酸塩は、1908年日本の化学者池田菊苗先生によって発見された。そして、その味が「うま味」と名付けられ、グルタミン酸を主成分とした調味料(グルタミン酸ナトリウム)の製造法特許を取得された。博士はこの功績によって、「日本の十大発明家」の一人に選ばれている。
 うま味発見から5年後、小玉新太郎先生は、鰹節のうま味成分が、イノシン酸の塩類であることを見出された。
 ヤマサ醤油研究所の国中明先生は、1995年、微生物による核酸分解の研究から、‘5-イノシン酸がグルタミン酸との共存により、うま味が相乗的に増大すること、‘2や‘3-イノシン酸はそれを示さないことを発見された。また、‘5-グアニル酸も強い相乗性を示すことを証明された。
 この三大うま味成分やうま味の相乗効果は今日、専門書だけでなく、多くの料理本でも紹介され、料理に活かされている。
 日本国内ではグルタミン酸ナトリウムが年間約10万t強(2017年)、イノシン酸とグアニル酸ナトリウムなどの核酸系調味料が約5千t弱(同年)発酵法、酵素利用法で生産、販売されている。
 世界規模では、グルタミン酸ナトリウムは330万t強(2015年)に上り、日本の伝統的食文化と先端的微生物利用技術の出会いが革新的な成果をあげた代表例である。
 これらのうま味系調味料の研究と開発は、食品産業の多様化、食生活の簡便化を目指す、風味調味料やエキス系調味料、ソース類、合わせ調味料、メニュー対応調味料などの開発に寄与している。

昆布だしと健康
 原料昆布には、アルギン酸、フコイダンのような食物繊維、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、ヨウ素、その他鉄、亜鉛、セレンなどのミネラルが豊富に含まれる。ビタミンでは、カロテン類および葉酸が相当量含まれ、褐色色素のフコキサンチン、貯蔵多糖類のラミナランも健康上有益な成分であると言われている。
 また、日本のだしをベースにし、米を主食にした日本型食生活は、健康の維持・増進および食料の自給率向上のために有益であるとされている。
 昆布で注目されるのは、ヨウ素である。ヒトの身体でヨウ素を必要とするのは甲状腺だけであり、甲状腺ホルモンの構成成分である。 
 ヨウ素欠乏は、甲状腺ホルモン不足、甲状腺機能低下症、更に甲状腺腫に繋がる。
 日本では昆布等の海藻を摂取する食習慣のため、1日当たりヨウ素摂取推奨量130㎍以上の1000㎍程度摂取している。一方、海外の海産物消費の少ない国では、国策として食卓塩にヨウ素を入れてその不足を防いでいる国もある。
 ヨウ素の摂取は、放射性ヨウ素の防御にも有効であり、過剰摂取の弊害もあるが、中止すれば直ぐもとに戻ること、などから昆布加工品摂取による弊害は殆ど考えなくても良いとされている。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております