HACCP解きほぐし1 Hazardは「心配事」と翻訳するとピンとくる

食品化学新聞2018年12月27日掲載

浅野行蔵 技術士(生物工学/総合技術監理部門)

 Hazard Analysisは、危害要因分析と翻訳されている。これを聞いてすぐ納得できる、腑に落ちる人は少ないだろう。漢字なので日本語のように見え、漢字のまま鵜呑みにしている方が多いように思う。しかし、こんな言葉は日常生活では使わない。日本語の翻訳としては不十分なのである。だから理解できないのだと悟った。すとんとわかった気になれないのである。

 英語国民なら翻訳不要なので理解できるのかと思っていたが、英国の食品基準庁が発行し Safer food, better business (小売編、レストラ ン編)」のなかに驚きの表現があった。「Hazardは理解しにくくJargonだ」と書かれている。辞書でJargonは、普通の人にはわからない専門用語、ちんぷんかんぷん、たわごと、などと書かれている。英国人は、米国人の用語をこんな風に見ているのか! 英国人も腑に落ちていなかったのである。

 ところが、Hazardを正しく理解して、そして活用できるかにHACCPの成否がかかっている。どのように理解すれば良いのか?じつは、日本語には理解しやすい言葉がある。Hazardを「心配事」と翻訳すると理解が進む。腑に落ちるのである。私のセミナーでは「心配事」をキーワードとして使っている。HACCPで最も大切なのは原則1のHazard Analysisである。ここでやることは、まず「心配事リストをつくる」こと。可能性のある心配事をすべてリストアップすることが重要だ。

 特定の食品を作る原料、加工の工程において、気にしなければいけない「心配事」が多々ある。心配事を漏らすことなく書き出してゆく作業を行う。発言 だけではダメで、必ず書き出 す。HACCPチームのメンバーが集まり、製品を安全に作るための心配事をすべて出し尽くす作業だ。「そんなことは、起こらないだろう」などとメンバーの発言を否定してはいけない。「こんなこと言ったら、まさか、ありえないと笑われてしまう」と遠慮してもいけない。考えられるすべての心配事の書かれたリストをつくることを目指すのである。極度の心配性になって「心配事リスト」を書き出す。目指すのは「想定外を作らない!」。

 提案された心配事の一つ一つに安全策を考えてゆく。製造企業としての考え方、決断を示した表「6項目の危害分析表」を作成する。この6項目の危害分析表の形式は、FDAで採用されて厚生労働省も変えることなく日本語に訳してHPに掲載して使用を薦めており、国際標準化の動きとぴったり合って高く評価できる。6項目の危害分析表を使って「心配事」のすべてに対処方法を決めておけば、事故の可能性は最小になる、という管理の考え方がHACCPの肝である。つまり、ひとたび心配したことは、会社として対処法を決めている、ということだ。

 でも、リストに無いことが起こったら慌ててしまうもの。それ故に「想定外」をなんとしても減らす!ことが重要なのである。「強い心配性」になって心配事をリストアップする。ゲーム感覚で心配事を出す。できるだけたくさん心配事を出す。無理矢理でも心配事を出す。そして、他人の心配事を否定しない、である。常々アンテナを立てて心配の種も勉強して探して自社にあてはめることも必要だ。

 食品だけでなく多くの事故で「想定外」という言葉が使われてきた。まさかそんなことが! 思いもよらないことが!と事故後に言われる。

 日本最多1万3千人の患者を 出した乳業会社の事故の原因は、ツララだった。ツララが変電設備の屋根を破って落下し、停電となり工場をストップさせたことが食中毒事故の引き金となった。電源喪失である。どこかで聞いた言葉だ。

 福島原発の爆発事故の始まりも電源喪失だった。福島原発でも津波が防波堤を越えることは「想定外」と当初は報道された。しかし、その後の報道で明らかになったように、原発設計時に津波の危険性を指摘していた人がいた。その想定はないことにしようと、人為的に作られた「想定外」だったのだ。

 乳業会社での電源喪失は「想定外」だったのだろうか ?否である。45年前に電源喪失による同様の食中毒事故を起こしていたのだ。想定外を作ってしまうことは会社を根底から揺るがす事態へと発展する。

 HACCPは、食品を安全に作るための手法だが、工業製品などすべてのものの製造管理と 共通した安全管理の手法である。

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