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プチ断食のすすめ(食品技術士リレーシリーズ40クール) 技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所、本文言でNET検索可]

 一般的な日本人の場合、次のような宗教行事に参加することが多いだろう。まず、一年を見てみよう。正月は初詣に出かけるが、これは神道(神社)や仏教(お寺)に該当する。ハロウィンは古代ケルト人、クリスマスはキリスト教の行事である。また、初宮参りや七五三は神道(神社)である。結婚式はキリスト教(教会)が多い。筆者は明治記念館において神式で行ったが、少数派だったに違いない。葬式は仏教(お寺)が一般的になる。お伊勢参りといった巡礼は神道である。現在でも四国霊場などの多くの霊場が対象になっている。ただし、目的は「災厄除け、修行」から「健康、観光、信仰」の享受に変化している。アニミズムに起因する八百万の神を抱く神道が元になり、仏教やキリスト教もひとつの神としてこれに加わったという考え方があり、祖先崇拝を加えてもよい。筆者の宗教観はこれに近い。

 さて、上記の仏教とキリスト教にイスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教を加えたものが五大宗教である。キリスト教を除いた四つの宗教には食に関するタブーが存在する。まず、イスラム教について説明しよう。筆頭に挙げられるのが、ブタである。これは反芻を行い蹄(ひづめ)が割れている動物だけがよいとされているためである。また、イヌ、ロバ、ラバは不可である。鳥類では猛禽類、ダチョウ、カラス、キツツキなどが不可である。食肉とするには、極力苦しまないようにと殺し、「神の御名に」と祈りを唱えることになっている。また、酒類も禁止されている。

 イスラム教の元であるユダヤ教はもう少し複雑である。食肉や鳥類はほぼ同様といってよい。ただし、魚介類に多くのタブーがあり、鱗と鰭(ひれ)のあるもの以外は不可である。エビやカニにイカ、アワビなどが挙げられる。魚類ではウナギが加わる。食肉と乳製品の同時調理は不可という条件も存在する。タブーとする理由は全く不明である。イスラム教と異なり、酒類は問題ない。

 両宗教でブタがタブーとなっている理由に触れておこう1)。その昔、中東でブタは広く飼育されていた。その後、森林破壊と人口増により、牧草地が広がり砂漠化が進行する。この状態で、ブタ飼育は困難になった。ウシなどの反すう動物なら草でよいが、人間同様に穀物を飼料とするためである。

 ヒンズー教徒はベジタリアンである2)。乳と卵を許容するラクト・オボベジタリアンが多い。なお、2021年に決定された国際標準化機構(ISO)の規格に準拠したベジタリアンJASが近く制定される見込みである。仏教徒の精進料理はよく知られている。五葷(ゴクン:ネギ属のネギ、ニンニク、ニラなど)をタブーとすることがある。煩悩を刺激するためである。

 イスラム教やユダヤ教にとり、合法なハラールやコーシェ、ベジタリアン用食品にグルテンフリーや有機食品を揃えるスーパーが都内などで増加中だ。一例がフランス発の「ビオセボン」3)である。

 イスラム教徒(ムスリム)の人口はキリスト教徒に次ぐが、2050年には肩を並べるレベルに達する。それにも関わらず、日本人はムスリムの生活をほとんど知らないではないか。少し触れておこう。イスラム法の中心に存在する五本の柱を五行という。信仰告白、礼拝、喜捨、ラマダーン、大巡礼がそれにあたる。この中のラマダーンだが、イスラム歴の九月を指す。イスラム歴は完全な大陰暦で、太陽歴(グレゴリオ暦)とは毎年11日のズレを生じる。

 ラマダーン月にムスリムが行うのが断食である。夜明け前と夜間は可能だが、明るい間、飲食を行わないのだ。目的は心身を清める、忍耐、思いやり、連帯などにある。内面的な虚言や嫉妬、怒りなどの感情を抱くこと、喫煙、性行為も禁止されている。弱者や子供は除外されているが、子供は早くこれに加われるようになることを願っているという。ラマダ-ン終了後「イード」という祝祭になり、モスクへと集まり、集団で礼拝をおこなう。

 この断食という文化を日本に採り入れたいと思う。プチ断食のすすめである。いくつかの健康に関するメリットが存在するからである。身体の機能を正常に戻す、老廃物の排出を促す、便秘解消などが挙げられる。また、食べ物に関する感謝の心も生じるだろう。年中行うのは、負担が大きい。まずは、2024年のラマダーン月(3月11日から4月9日)に挑戦するのが一つの考え方になる。ただし、水分の制限は避けるべきである。ムスリムにとって聖なる金曜日に試してみてはいかがだろうか。

1) アーヴィン・ハリス「食と文化の謎」岩波書店(1988)
2) 蒲原聖可「ベジタリアンの医学」平凡社新書(2005)
3) ビオセボン https://www.bio-c-bon.jp/