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カンボジアの農業・食糧事情あれこれと日本 

  技術士(農業部門) 鈴木 修武 (鈴木修武技術士事務所) 

食品化学新聞社 2021年4月8日記載記事 

食品技術士センターも50周年になった。「技術士が描く20年後の食産業を大胆予測」で、Farm(水産・農業・酪農等)で議論した。ノーベル受賞の吉野博士のルネッサンスの「自然に帰れ」に賛同して有機農業を提案したが、評判は芳しくなかった。昨年、カンボジアに2回訪問し、食糧事情を紹介したい。

1.カンボジアの農業・食糧事情とは、

 観光客向けと地元の市場は違いが大きく比較すると面白い。観光客向けは、ほとんど輸入品で、地元向けは地場農産物(タイやベトナムからの輸入品も多い)や地元加工品もあった。7年前に訪問した時には見られなかったキャッサバ、胡椒の栽培が大規模に行われ、ドラゴンフルーツ、マンゴーなども多く見られた。JETOROによれば、主要産業は縫製を含む繊維・衣料だが、農業は労働人口約70%を占める。米は100万t以上輸出されるが、品質が悪いのでほとんどヤミ輸出らしい。理由は栽培技術の未発達、輸出品種がない、食品加工技術がないなど。ほかに大豆、緑豆がある。タピオカ澱粉の原料であるキャッサバは、雨季(10月)に訪れたときは、収穫と植え付けの時期であった。収穫されたイモの袋が道路端にあり、回収するとチップにし、乾燥したのち輸出される。ガイドが、タイに輸出され、高いタピオカ澱粉で逆輸入されると嘆いていた。トラクターで耕した後に、約1.5mの木から苗を約10cmに切られ、一本ずつ植え付ける。葉のないキャッサバの木が苗の置き場に保管されて、労働者のテントが7~8張あり、さらに奥にテントを増設していた。山岳の農民の現金収入みたいで、テントは宿泊施設になっていた。世界の澱粉生産量(2017年農業機構)は約4134万tで、タピオカ澱粉は約910万tで、タイはタピオカ澱粉の生産・輸出国で約350万t、近隣諸国からチップ原料を輸入加工していると推測する。胡椒畑は、約3mの支柱に栽培され、1.5m間隔で植えられ、緑色の実がなっていた。海外資本の栽培で現地の労働者に委託されており、土産品は品質が良かった。コーヒーもカンボジア産を購入したが非常においしかった。訪問農家にカカオ椰子の栽培を聞いところ儲けないと言われ、土産の製造販売店は、北部のタイに近い所で栽培しているとようだ。日本で不足気味のバニラビーンは両者とも知らなかった。カシューナッツは、農家の庭や空き地にも植えてあるが、組織的な栽培は農場で行っている。

2.日本の水は、品質世界一か?

カンボジア、タイ、台湾、ベトナムを訪問してわかることは日本の水道水は豊富でおいしく、衛生的な品質も良く世界一だ。カンボジアは広大な耕作地があるが、雨水、クレーン山から聖なる水、メコン川から逆流する水(トンレサップ湖:雨季4~6月約3000Km2、3倍以上の雨期約1万Km2)に頼っている。各ホテルの水は井戸水をつかっているのか味が重たく、中には刺激臭がする所もあり歯磨き用水、口濯ぎ用もペットボトルの水にした。訪問した農家は、手押しポンプと電動ポンプで水を汲みあげていた。昭和30年代の生家は、井戸水を使いシュロ、小石や砂層で濾していたことを思い出した。同じ方式であり、容器と小石は赤褐色で酸化された鉄の色で、ろ過しても試飲できるものではなかった。川は赤褐色で、地元の人たちは、川魚は味が悪いので食べず、食べる魚はトンレサップ湖の中央のきれいな水の魚と言っていた。筆者の幼少時、お茶を飲もうとお湯を使うと時々青色に変色したことがあった。学生時代にカテキンと鉄が反応して変色すると学んだ。15年前に、ある県の低地にある大手パン工場に訪問してこんな経験をした。油の問題は解決した後に、担当者と雑談の中で、チョコレートがくすんだ色で、全国評価で最低品質と悩んでいた。色々と話した後に経費節減で水道水と井戸水を併用しているからではないか。多分チョコレート中のポリフェノール類と鉄が反応して変色するのではないかと助言した。先に訪問した農家では、市販の豚脂で健康障害が出たことから独自に調達した新鮮な豚脂に替えたと言ったので、風味試験をしたが合格であった。彼自身の体が弱く、幼少の頃の公衆衛生が悪く特に幼児衛生情報が遅れていると言っていた。砂糖の過剰・脂質の酸化・乳児のゲップの問題にしていた。幼児と新生児の死亡率(2017年ユニセフ)は、日本の昭和和35年前後と同じで、筆者の静岡では昭和33年に水道が開通した。改めて日本の先祖の努力と恵まれた地形や緯度と気候などに感謝。皆様どのように思いますか。

(食品化学新聞 2021.4.08号 掲載)