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一帯一路とは

技術士・農業部門 齋藤 健

2013年11月中国共産党18期中央委員会によって採択された“内陸辺境地域の開発加速と自由貿易の加速”を目的として作られた改革プランであり、中国の国家戦略とみなされるものである。一帯とは中国西部の重慶などの都市から中央アジア諸国を経てスペインにまで到達する鉄路であり、2018年には年間6000本の貨車が往復している。中国からは日用雑貨、自動車、電化製品、IT部品など、欧州からはチーズなど乳製品、肉など畜産物、ワインなどが運ばれている。この帯は途中で分岐があり、ラオス、タイ、マレーシアを経てシンガポールに至るもの、ミャンマーのインド洋側に至るもの、パキスタンのグワダール港に至るものがある。この中にはパイプラインを敷設して液化天然ガスを中国へ直接輸入するという計画もある。

一路とは中国東南部の海岸からベトナム沖を経てシンガポール、マラッカ海峡を経てスリランカのハンバントタ港を経て、パキスタンのグワダール港からアフリカ大陸の東部のジブチ、ギリシャの港までのシーレーンである。この中には中国からの借金が返せないことの見返りとして99年間の経営権をとったハンバントタ港と中国海軍基地のあるジブチがあり、インド洋の制海権をインドから中国が手にしようとしているようである。

これらの一帯一路の設備の強化のために道路、鉄道、送電設備、港湾施設などの建設が必要であり、そのための資材は2008年の北京オリンピックの競技施設建設 に用いた鉄鋼、セメントなどの製造設備が利用できる。問題は資本である。中国政府だけからの貸付だけでも可能であるが、返済不能になるとスリランカの港やギリシャの港のように運営権を中国に持ってゆかれる、最近はケニヤのモンバサから内陸までの鉄道でこういう問題が発生している。ケニヤの裁判所では計画の見積もりから競争見積もり出なかったとか言っているが、もうできてしまった後から文句をつけてもどうしようもないであろう。

このような事態を防止するために融資を行う国際開発金融機関を中国が主導して2013年に発表された。本部は北京において、総裁は中国財務次官が就任予定、名称をアジアインフラ投資銀行(AIIB)と称する。出資は当初500億ドル、最終的には1000億ドルを見込む。2015年までに中国はじめアジア各国、英、独、伊などEUから50か国が協定に署名した。中国は出資金の30%を提供してAIIBの主導権を握ることになる。

米国、日本にも出資の呼びかけがあったが、この両国は似たような出資機関であるアジア開発銀行(ADB)の運営に深くかかわっている上に、AIIBの機能の不透明性から出資は行っていない。中国では行政、立法、司法は共産党の管理下にある。AIIBも共産党の管理下にある。こういうところが主導権を握っていては、予算作成、事業実施などに本当の数字を示すかどうかわからない。もう一つ事業の心配は重慶から欧州に至る間のタジキスタン、キルギスタンなど中央アジアの国々はロシア語が共通語でありロシアの裏庭のような位置にある。こういう処で中国が行うインフラ設備計画をロシアが黙って見ているであろうか?アジアの中ではインドネシアがジャカルタの首都機能をカリマンタン島へ移転する計画の検討をAIIBの資金での実行を考えているという。

私としては中国にとって、一帯一路はEUから中国への食糧輸入ルートとしての生命線ではないかと思う。日本ではあまり報道されていないが今年は長江周辺での降雨量が多く三峡ダムが危機に瀕しているという。上流でも下流でも氾濫により農地の損失が大きく、穀物などの食糧不足が心配されている。習近平が最近、国民に対して食事を残すなと指示をしている。

2020年9月初め、東シナ海から韓半島に向かった台風があった。台風進路を横切った貨物船が機関停止事故で横波を受けて奄美近海で沈没し、フィリッピン人船員1名が救助されたと日本の新聞で発表されたが、この船はニュージランドから牛5800頭を積んで中国唐山市へ向かっていたものであり、一か月近い航海のためフィリッピン人船員39名、ニュージランド人と豪州人船員各2名が乗船していたが救助された1名以外は牛もろとも遭難したそうである。牛は肉用にされるのか、育種改良のために用いられるのかは不明である。何れにせよ中国が食糧輸入を全世界から企てていることは明らかである。我が国としては隣人にこういう国があることを常に意識しておく必要がある。

出典:中国の一帯一路の構想の真相、トム、ミラー、田中未和訳、原書房刊

2018年5月

筆者紹介:発酵工業会社、国連食糧農業機構、ODAコンサルタントとして経験豊富、日本エッセイストクラブ会員

(食品化学新聞2021.5.27号 掲載)