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「ワイン市場と官能検査」

公益社団法人日本技術士会登録 食品技術士センター理事

日本食品技術株式会社 代表取締役 技術士 農業部門(食品製造)江本三男

一般社団法人 日本ソムリエ協会 ソムリエ

キーワード:ワインビジネス、官能評価、日本ワイン、テイスティング

はじめに

新型コロナの影響で、家に巣ごもりすることになり、どうしてもワインの魅力に惑わされて飲みすぎを実感している。筆者の前職の企業がワイン事業部を持ち、アメリカで醸造業を営み、その製品を日本に輸入して販売している。さらに、かつては山梨にワイナリーを経営して、醸造技術と除菌技術を利用して新しいワインを商品化するプロジェクトがあり参加していた。このような経験から自然にワインに親しむようになったので、最近のワインビジネスとワインの官能評価について考察してみる。

日本のワイン事業の歴史

日本で本格的なワイン造りが始まったのは明治時代である。当時、すでに生食用のぶどう栽培が盛んだった山梨県で山田宥教と詫間憲久の二人がワインの醸造をスタートした。当時の明治政府も、殖産興業政策としてぶどう栽培とワイン生産を積極的に取り入れた。

日本で徐々にワインブームの兆しが見え始めたのは、東京オリンピックが開催された1964年ごろである。また、1970年代前半の大阪万国博覧会が開催された頃に、第1次ワインブームが起きた。さらに、何度かのワインブームを経て、バブル経済期の1989年にはワインの年間消費量が約10万キロリットルとなり、1997年に約20万キロリットル、2012年に約30万キロリットルと、時代が進むごとに消費が拡大した。理由として、欧米の食文化が一般に広まり、外国産ワインの輸入が自由化されたことが挙げられる。

日本のワイン市場

日本のワイン市場は、多様な生産国のワインを取り扱っており、この量は実はイギリスに次いで2番目となっている。そんな日本のワイン市場だが、ワイン・トレード・モニター2019の調査では、回答者の49%が成長すると回答されている。その牽引役は、フランスワインでもイタリアワインでもなく、日本ワインになると言われている。また、同調査の回答者の40%が、フランスやイタリアのワインよりも、日本ワインが売り上げを伸ばすと予想している。しかも、調査に参加した貿易専門家によると、国産葡萄100%でつくられた日本ワインの売り上げは、過去最高の成長を記録する見込みだと言われている。

ワインの官能評価

 ワインのテイスティングについては、決められた手法が確立されているが、ワインの歴史やブドウの栽培、収穫、醸造、貯蔵、運搬の全てにある程度理解と知識があれば、さらに深くワインの世界を堪能することができる。ワインを抜栓してグラスに注ぎ味わうまでに、壮大な世界が広がっていることを感じることができる。日頃、量販店や小売店の店頭に置かれた商品にも膨大なバックグラウンドがあり、本当に理解するには、商品に対する敬意を持って総合的に評価するべきだと考える。

1)テイスティング手順とチェックポイント(一般的)

(1)外観を見る:①色と色調、②澄み具合と濁り具合、③粘性

(2)香りをかぐ:①アロマ、②劣化の香り、

(3)味わう:①甘味(極辛口・辛口・オフドライ・甘口・極甘口)、②酸味(弱い・やや弱い・中程度・酸っぱい・非常に酸っぱい)、③タンニン(少ない・やや少ない・中程度・渋い・非常に渋い)、④アルコール度(低い・やや低い・中程度・やや高い・高い)、⑤ボディと特徴

(4)印象特徴:①バランス、②特徴、③乾燥と意見

2)ワインを表現する言葉

(1)間接的用語:①人生の経験に例える。②個人の主観的表現をする。③数限りない言葉を駆使する。④喚起的な言葉で、香味や香りや臭覚的感覚を言い表す。⑤マーケテイングやメディアで使われて売上促進させる効果がある。⑥ワイン専門家のコメントに使われる。

(2)直接的用語:①主要な特徴の、色、甘味、味、ボディを表現する。②客観的な特徴を言い表す。③具体的用語を使う。④色、味、香り、食感をピンポイントで表現する。

⑤ワイン造りの表現や現場で使う比較分析表現をする。⑥多くの人に理解されやすい表現でする。

むすび

ワインは、日本の食品業界の重要な位置にあり、日本の社会に溶け込んでいる。最近では日本酒がワインの味わいを持ち、香りと味わいが西洋料理との相性の良さを強調されて、高級ワインを上回る価格で取り引きされたりしている。ワインも日本食との相性では、白ワインが好まれていたが、近年ではこだわりは無くなったようで赤ワインとのマッチングも好まれているある。

(食品化学新聞2021.6.17号 掲載)