肉のおいしさと脂質 

石田賢吾(技術士農業部門)

 脂質は人体への重要なエネルギー源であると共に、栄養や機能性成分として重要である。また、食品のおいしさにも密接に関係している。牛、豚、鶏肉などの食肉に含まれる脂質の種類や存在の状態が、それらのおいしさに重要な役割を果たしている。

 近年、脂質を構成する脂肪酸が、第6番目の基本味である証拠となる神経が発見された概要について述べる。

 牛肉のおいしさと脂質 

 おいしい食肉の代表である和牛の脂質含量は、サーロイン47.5%、ヒレの赤肉で15.0%程度であり、それらの融点は40~50℃である。なかでも和牛肉の特徴は脂肪交雑にあり、いわゆるサシ(霜降り)が入るのが良い肉質とされている。この和牛肉の品質の格付基準として、赤身の肉にどれだけサシが入っているかを示した牛脂肪交雑基準(BMS:Beef Marbling Standard)がある。最近ではこのBSMに加えて牛肉に含まれるオレイン酸の割合を格付けに利用する動きがある。オレイン酸は一価不飽和脂肪酸の一つで、脂肪の風味や口溶けを良くする。また、牛肉の加熱フレーバー特にラクトンなどの生成にも関与しているとの仮説がある。日本獣医生命科学大の松石昌典先生は、和牛肉のおいしさと油脂との関係では、オレイン酸に加えて、粗脂肪含量、BMSナンバー、複数の特定の脂肪酸含量などを組合わせることで、より正確に評価できると述べられている。

 豚肉のおいしさと脂質 

 大型種の豚肉の脂質含量は、肩ロースで19.2%、ヒレの赤肉で1.9%前後含まれており、融点は牛肉より低く36~46℃程度である。

 豚肉においても霜降り状のサシが入ったおいしい豚が開発されている。これは、東京都畜産試験場で育種されたもので、味の良い中国産の北京黒豚、肉質がよく一般に黒豚と呼ばれているイギリス産バークシャー、発育が早く筋肉内に脂肪が入りやすいデュロックの3品種を基礎豚として5世代にわたり交配を繰り返した系統造成豚である。平成2年より7年の歳月をかけて、新しい系統豚が育種されて、「トウキョウ X」(系統名)と名付けられた。この豚肉の脂肪含量は、通常の豚赤肉より多く4.5%に達し、和牛の霜降りにも似た状態で、肉の色が淡いピンクで、キメが細かく肉質は柔らかい。豚では脂肪交雑が出来にくいというのが定説であったが、これを克服して新しい“品種”を作り上げた。
「トウキョウ X」の試食では、豚肉の臭みがなく、脂肪の溶ける温度も低く、あっさりとした舌ざわりで、肉全体が柔らかい。

 鶏肉のおいしさと脂質 

 鶏(若鳥)の胸肉には11.6%、もも肉には14.0%程度の脂質が含まれている。その脂質の融点は30~32℃である。鶏肉は部位によって脂肪のつき方が異なり、手羽先、皮つきもも、皮つき胸、ササミの順に多い。脂肪のつき方は牛や豚のように筋肉の間に脂肪が入り込んだものでは無く、主に筋肉と皮との間に存在する。鶏肉料理をジューシーに仕上げるには、この脂肪分を如何に上手に利用するかがポイントとされている。

 ここで、(株)j-オイルミルズの山口進氏らの比内地鶏のおいしさにアラキドン酸が関与しているという報告を紹介する。ブロイラーと比内地鶏の呈味成分の分析によると、アミノ酸やイノシン酸などの含量の差はみられなかったが、比内地鶏には粗脂肪中にアラキドン酸含量が高く、これが比内地鶏の美味しさの原因であることを確認された。また、アラキドン酸を多く含んだ油脂の給餌によって鶏肉のアラキドン酸含量が高まり、うま味、コク、甘味などが強く、全体的に美味しくなったと報告されている。

 脂肪酸の味は6番目の基本味か

 九州大学の安松啓子先生、二宮祐三先生らの研究グループによって、他の味とは独立して脂肪酸の味を伝える神経が鼓索神経の一部で発見された。これは、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つの基本味に加えて、脂肪の味が6番目の基本味である新たな証拠になると報告されている。

 この研究グル-プでは、マウスの鼓索神経の単一線維における応答を記録し、「脂肪酸に特異的な応答を示す神経線維が全体の約17%を占めている」こと、また、「半数以上の甘味、うま味応答神経群が脂肪酸に応答する」ことを確認された。これらの実験により、脂肪酸独自の味を感知する味細胞では、GPR(G-Protein Coupled Receptor)120が重要な役割を果たしていることが明らかになった。

 食物中の油脂の味は、唾液などに含まれる酵素リパーゼにより脂肪酸に分解され、舌の味蕾細胞に存在する受容体・トランスポーターを介して味細胞とそれにつながる神経によって脳に伝えられる。

 これらの発見は糖尿病の治療や摂食行動・消化吸収の解明、さらに新しい食品の開発に繋がると期待されている。

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(食品化学新聞2021.9.09号 掲載)