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2021年 7月 例会 講演会

例会 講演会

7月例会 講演会

場所: 東京非常事態宣言のためにWebのみとなりました

講演会 14:00~16:50

講演1「酵素の食品利用と応用例」

天野エンザイム株式会社 マーケティング統括部長付部長(海外担当) 豊増 敏久氏 (技術士生物工学部門)

要旨:
さまざまな機能を持つ酵素は、食品加工において幅広く使用されています。日本においては発酵食品が広く親しまれていることもあり、酵素利用が比較的認知されていると感じます。和食が無形文化遺産に認定されたこともあり、最近は海外からも酵素に関する問い合わせが増えています。味、香り、食感改良から製造工程の改善まで、国内、海外の応用例を通し、酵素の機能、効果を紹介します。
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講演2「MALDI-TOF MSによる食品分野の微生物迅速同定法の現状および微生物リスク情報の入手」

独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) バイオテクノロジーセンター 参事官 川崎浩子氏

要旨:
昨今の食品業界では、HACCP の制度化、品質保証、クレーム対応、製品開発、基礎研究と、すべてに迅速性が求められている。MALDI-TOF MSを用いた微生物同定法は、他に類を見ない迅速性と簡便性から、臨床分野で医療機器として認定を得た後は、その汎用性から食品業界にも広がり、多くの企業で導入が行われている。本講演では、本手法の利便性の実際、微生物スクリーニングへの応用、そしてNITEの微生物リスク情報の入手支援についても紹介する。

講演詳細 講演1「酵素の食品利用と応用例」内容:

天野エンザイムは、創業122年の総合食品酵素メーカーで、酵素事業を立ち上げてからは70年以上経過した。国内に6拠点、海外に5拠点展開し、海外の売り上げが実に半分を超える状況である。HPでは見えないもので世界はできている、というタイトルで趣向を凝らした酵素の紹介を行っている。
1.酵素剤の作り方
微生物を探すところから始まる。土壌から微生物を分離し、種を特定後、純粋培養し酵素活性を測定する。トランスグルタミナーゼはもともと臓器からの抽出で製造していたが微生物からスクリーニングしコスト削減が可能になった。面白い酵素を見つけるにはユニークな微生物を見つける必要がある。微生物の培養方法は固体培養と液体培養がありそれぞれ一長一短がある。製造は主に抽出・濃縮・精製・乾燥を経て作られる。粉末、顆粒、液状、固定化(担体)などの製品群がある。
2.食品添加物としての酵素
第9版食品添加物公定書には68品目の酵素が収載されている。最終食品中で効果を有しない場合は加工助剤となり表示は免除される。日本において酵素利用が好まれる理由の1つである。近年はコーシャ・ハラルへの対応、アレルギー表示への対応、遺伝子組み換えや消費者の食の安全に対する関心の高まりに対する対応が必要である。
3.酵素の基本特性
酵素の最大の特徴は基質特異性で、至適温度やpHがある。産業用酵素剤は、夾雑酵素活性を有しているものが多いので注意が必要である。
4.酵素を利用する利点・留意点
酵素利用の利点は、特異性が高く、副反応が少ないこと、環境負荷が少ないことがあげられる。酵素の失活の確認は難しく、活性そのものをゼロとして証明するのは極めて困難であるため、製品に品質変化がないことを確認し、失活していることの担保とすることが多い。酵素の保管は、粉末製品は比較的安定で1~2年持つが、液体は10℃保管で半年~1年程度の使用期限が一般的である。反応性が条件によって変わることもあるので注意が必要である。
5.酵素の使用例
プロテアーゼやペプチダーゼでの活用例が多い。天野エンザイムでは、様々な由来のプロテアーゼ製剤をそろえており、最適pHや最適温度も製品により異なる。プロテアーゼの由来によりタンパク質の分解特性が異なる。肉エキスの利用が最も多いと思われる。また、ユニークなところでは、耐熱性卵黄液の製造にプロテアーゼが使用されている。耐熱性を付与することで殺菌がしやすくなる。トランスグルタミナーゼはタンパク質同志を架橋し、ヨーグルトの離水防止やかまぼこの製造などに用いられている。
油脂の分解酵素であるリパーゼは、水分含量により加水分解へ進むのかエステル交換反応へ進むのかが変わってくる。チーズの製造やカカオバターの製造、育児粉乳の製造などに応用されている。
糖質関連酵素は、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼなど各種あり、もちの柔らかさを維持したりグルテンフリー商品への応用、甘味料の味覚改善、配糖体の溶解性改善などに用いられている。
酵母エキスや清酒製造、小麦製品には様々な種類の酵素が用いられている。

質疑応答:
Q:βアミラーゼを含むお餅は、どの段階で酵素を添加しているのでしょうか? 耐熱性を有しているのですか?
A:もち米を蒸して温度が下がった後に添加する。ある程度の耐熱性は有している。

Q:酵素を表示する製品が増えてきている気がしますが近年のトレンドでしょうか。
A:酵素を積極的に表示したい会社は増えてきているが、効能面は謡えない。消費者も酵素に対する意識が変わってきている。

Q:夾雑物として含まれる酵素が製品の品質によい方向で影響を与える場合もあると思いますがその場合精製すると品質が落ちるので管理が難しいですね。
A:酵素は生き物なので、そのようなケースも考えられるがヒアリングの上、改良等する場合は実施する。

Q: トランスグルタミナーゼ以外に、面白いスクリーニングを行った例があればご紹介ください。
A:いかに見つけ出すのかという反応系を構築するのが重要。

Q: プロテイングルタミナーゼが食品添加物として使用できるのはいつ頃と考えられますか?
A:日本で認められなかった理由は安全係数が高かったこと。菌のスクリーニングから開始しており3年程度かかる。

Q:α-1,3結合グルコースを含む天然物質はあるのでしょうか?
A:すぐにはお答えできないが、天然にはあると思われる。

Q:ハラール対応のためには、微生物培地への動物性原料使用の有無が問われますが、ハラール対応の酵素の生産は増えているのでしょうか?そういう要請は多くなっているのでしょうか?
A:増えている。培地メーカーもその認識。コストは上がる場合があるが、基本は同じ価格で実施。

Q:食品加工用の酵素で、耐熱性や耐塩性の酵素というのはありますでしょうか?
A:耐熱性はいくつかみられる。塩濃度が下がると反応はもどる。反応が遅くなるので添加量を増やす。失活することによって

Q:日本食の中での酵素利用は歴史もあるし、使用例も多いがグローバルのマーケットでのシェアはあまり高くないと思う。何が原因でしょうか。
A:手間がかかる。アメリカはマスプロダクションの世界がある。日本の販売力は弱い。特徴のある製品が継続的に開発できていなく、コストも高い。

所感:
応用範囲が広く、また日本ではあまり表示の必要がないので利用しやすい環境と感じた。海外で使用する場合は、各国でのポジティブリスト制度の有無や用途の制限などがあり、複雑なので、日本で製造し輸出する場合等は注意が必要である。市場は250億円強と思ったより大きな市場ではないが、海外ではプロテイングルタミナーゼなど新しい酵素もでてきており、今後も少しづつ広がっていく市場であると思われた。身近なところに酵素が使われており、講演を聴講して親近感をより感じることができた。