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2021年 8月 例会 講演会

例会 講演会

2021年 8月21日(土) 例会13時~   講演会14時~

場所:東京非常事態宣言のためWebのみとなりました

講演1:「酒粕・酒粕由来ペプチドの新規機能性」

月桂冠株式会社 醸造部 生産技術課 堤 浩子氏(技術士生物工学部門)

講演要旨:
日本酒は、香味を楽しむ以外にも、麹菌や酵母による発酵で生まれた機能性にも着目されている。酒粕には、コメや酵母由来の成分が豊富に含まれており、それらは醸造過程で生成される。酒粕や酒粕を酵素で加工した酒粕由来ペプチドの機能性を探索した。その結果、酒粕には体を温める効果等、酒粕由来ペプチドには、血圧上昇抑制や抗酸化などの機能性を見出した。このような身近な発酵素材である
酒粕の着旺盛について紹介したい。

講演2:「緑茶市場を活性化させる特定保健食品、
機能性表示食品の開発」

株式会社伊藤園 マーケティング本部 本部長 志田光正氏

要旨:
1985年緑茶飲料誕生以来、緑茶飲料市場は茶カテキンの健康価値を背景に伸長してきた。わずか20年で市場規模が約4500億円まで急成長するなか、ブランド間競争が激化。10年に及ぶ価格闘争は、緑茶そのものの価値訴求力を弱め、飲料・リーフともコモディティー化を引き起こした。
その10年を踏まえ、現在は緑茶のリーディングカンパニーとして、緑茶の本質的な価値向上を図る。市場活性化を目指す、特定保健用食品、機能性表示食品の開発と育成の取り組みを紹介する。

 

参加費 会員1000円、非会員3000円
参加申込みは、パスマーケット8月のページで受け付けております。

講演聴講記  「緑茶市場を活性化させる特定保健用食品、機能性表示食品の開発」  志田光正 株式会社伊藤園 マーケティング本部 本部長

内容:
伊藤園は、1966年8月創業の会社で、売り上げは4400億強である。特徴は全国にある拠点から営業展開し、ボイス制度によるお客様からの声を拾い商品開発へつなげている。もともとはパック茶からスタートしたが、夏場に売れる商品としてドリンクを開発した。缶の製品からPETへ、そして最近では電子レンジで加温できる商品も展開している。Still Now(お客様が何に不満を持っているか)を常にリサーチし商品化や商品の改良に生かしている。

1980年に世界初の缶入りウーロン茶を発売した。全ドリンクに占める無糖飲料の比率は1980年に1%であったものが、2020年には53%と半数を超えた。製品開発コンセプトは、自然、健康、安全、良いデザイン、おいしいの5つであり、社員にDNAとして受け継がれている。

次の30年に向けて、世界のリーディングカンパニーとなることを目指している。そのための課題として、世界の茶の生産量が50%弱増えている中で、日本茶農業では生産量や生産農家の減少といった課題がある。伊藤園では茶産地育成事業を通して日本茶の再成長、安定供給を図っている。伸長のトリガーは、カテキンなどの緑茶成分の健康性であり、健康創造企業として企業活動を行っている。

中央研究所を核とした健康価値創造ネットワークを活用した、研究費の助成等を通して商品化に結び付ける活動や健康フォーラム開催による情報発信、体験の場を提供している。次世代機能性農林水産物・食品の開発プロジェクトにも関わっており、健康機能を備えた農作物を畑から、研究開発することに挑戦している。

緑茶中のテアニンに着目し、日本初の認知機能対策の抹茶を開発した。ドリンクタイプと抹茶そのもののスティックタイプを2020年12月7日に発売した。2021年5月31日にはエーザイと業務提携し、認知症との共生と予防に向けた取り組みを行っていく。認知症を完全になくすのは難しいが少しでも減らせるよう共同で取り組んでいく。軽度認知障害は20~40%は回復できることがわかっており、食品メーカーとしてお茶の可能性を消費者に提供する。島津製作所、MCBIとの共同研究で抹茶の認知症予防効果を検証する臨床試験を実施中(2億円の研究費)であり、2022年秋に1年間摂取後の試験成果を発表予定である。

カテキンに関しては、ガレート基を含むカテキンに着目して研究を実施し、体脂肪を減らす緑茶製品(機能性表示食品)を上市した。おーいお茶濃茶ブランドの飲料を機能性表示食品にしたことで、2020年には2500万ケース、74%プラスで推移した。リーフ製品に関しても一番摘みのおーいお茶を機能性表示食品として2021年3月15日に上市した。

コロナ禍で外出が減ることで飲料の売り上げが低迷する中で、農家減少など、危機感を感じている。静岡県の茶生産は鹿児島県に抜かれてしまった現状もあり、新茶の時期の前に話題を作るため3月発売を実現した。

いつでも・どこでも、健康を気遣い、味わい、楽しみ、もてなすのが緑茶飲料のポートフォリオである。お客様とともに価値を創造するため、4Pから4C(共創、通貨、共同活性化、カンバセーション)にシフトしたマーケティング活動、認知症サポーター要請活動、ティーテイスター制度を通じた健康創造活動を行っている。最近では、京都府立医科大学との共同研究で、カテキンが唾液に含まれるコロナワクチンウイルスを抑える効果が明らかとなり、論文で公表されている。緑茶を含み飲みすることで、新型コロナウイルス感染者の飛沫感染を防止できる可能性がある。ウクライナの研究者の論文では、緑茶消費量と新型コロナウイルスの罹患率に負の相関がある結果が示されている。

質疑応答:
Q: 健康価値としてミルクプロテインが重要ということで、商品開発テーマとして取り上げたことがありますが、そこに独自のものがないと他社との差別化が図れません。畑でとれたお茶そのものを商品化したとの話ですが、抹茶でもカテキンでも、御社が健康価値のエビデンスを発表すればするほど他社の応援することにもなりかねません。その課題を解決する開発の秘訣は何でしょうか
A:その秘訣は我々はブランドと思っている。市場が活性化し、新商品が出て消費者が気付く中でブランド化すれば生き残っていけるので、新商品が出るのはむしろ喜ばしいことだと思っている。缶の緑茶の製造技術も開放して商品を広めたことも成功体験となっている。常にリニューアルして味を変えている。特許で守るところは守ったうえで防衛する。

Q: 健康機能を備えた農作物を畑から、研究開発するとありましたが、農業分野にも進出されるのでしょうか。機能性成分をコントロールした農産物を作るのは至難の業なので一次産業から携わるのはとても大事だと思います。
A: 畑から行うのは、競合もなかなかできないこと。2000ヘクタールの農家と契約している。伊藤園が一茶から秋冬番茶まで全量買い取っている。飲料やティーバックに適した茶葉作りを進めて健康成分の安定やおいしさの両立が可能となる。

Q: 輸入茶葉は使用しないのですか?国産の契約農家からの茶葉100%ですか?
A: おーいお茶は国産で商品化している。一部オーストラリアに契約農園を持っており、オーストラリア産を採用している。

Q: お茶の海外展開について聞かせてください。
A:アメリカと東南アジア(中国、ベトナム等)で事業を実施している。抹茶は人気で売り上げもあがってきている。日本の農業の管理体制が世界への輸出に適していないのでそれを合わせるのが課題である。

Q:農薬の基準で輸出できない経験があった。海外に日本の農産物を出すためには対策が必要。
A: その通り。

Q: 急須で飲む人が減ってリーフの消費量が減っているとのことだが、若者はドリンクで飲んでいるので減らないのではないか。
A: お茶を飲む量自体は増えている。お茶の飲み方が変わってきている。PETボトルからマイボトルに切り替わっている。

Q:コロナは肺炎が多いが胃壁をアタックすることがある。お茶が効きそうだが?
A:胃壁の作用については研究には至っていない。今後検討したい。

Q:茶殻の処理はどうしているか。
A:年間2万トンぐらい出ており、畳にしたり建材にしたりといった開発を進めている。茶殻のシールなど、抗菌作用を付与できる商品。ほとんどは飼料となっている。

Q: 容器選別の観点で、プラスチックは悪者になっている。回収など努力はされていると思うがどのような取り組みをしているか。
A: とても悩んでいる課題。エリアによっては、おーいお茶はリサイクルPETにしており、2030年にはすべてリサイクルに変えていく方針を発表している。リサイクルPETは取り合いの状態。

Q:静岡の茶葉が落ちた理由はPETが増えたから?
A:そこはないと思う。鹿児島は大規模農家が多く、静岡は、山あいで小規模で作ることが多い。急須で飲むことの価値を伝えていく必要がある。

所感:
伊藤園はリーフ茶からスタートした会社であるが、今や総合飲料メーカーとして緑茶以外のアイテムも多い。その中で、創業事業である緑茶の焦点を当て、世界のリーディングカンパニーを目指した健康創造企業活動は非常に共感を持てた。メーカーもこれからは原料から育て、アイデアを付与し、他社との差別化を図らないと生き残れない時代である。日本茶である緑茶は日本の食文化でもあり、衰退していくことが内容、世界のリーディングカンパニーとして美味しさと健康性の両立を目指しつつ今後も発展していってほしいと切に願う。

 

講演聴講記  「酒粕・酒粕由来ペプチドの新規機能性」 堤浩子(技術士生物工学部門)

内容:
酒は百薬の長といわれるが、酒粕はなかなか手にとってもらえない。酒粕の機能性研究の中で、「酒粕・酒粕タンパク質の効果」、「酒粕ペプチド」、「乳酸菌発酵酒粕」の研究を行っていたが、より、身近で実感できる機能性に着目して、アルコールを含まない酒粕の体が温まる効果について研究した。また、酒粕ペプチドについては、これまでもACE阻害ペプチド(血圧上昇抑制)を見いだしていたが、より多面的な機能性について研究を行った。

1 酒粕の体が温まる効果の検証
アルコールを含まない酒粕において短期でも長期でも血流を改善する効果が認められた。
長期摂取では、温度の回復を早める効果及び体脂肪を抑え、筋肉量、基礎代謝の増加する傾向がみられた。
NO産生による血流改善や基礎代謝向上による体脂肪抑制効果が期待できる。

2 酒粕ペプチド
酒粕タンパクを酵素分解して、加熱・乾燥後酒粕ペプチドを得た。酒粕ペプチドにはリノール酸自動参加抑制にはグルタチオンと同等、SOD様活性についてはフェルラ酸と同等の活性があった。酒粕ペプチド中0.1~6.5mg/g含まれるジペプチドにグルタチオンと同等のリノール酸自動酸化抑制があることを確認した。そこで、酒粕ペプチドについて非アルコール性脂肪肝(NAFLD)予防機能についてラットを用いて試験した。ラットに高脂肪食とともに酒粕ペプチドを与えると、体重は増加するが肝臓組織のトリグリセリドはコントロールに比べ有意に低下した。
酒粕ペプチドの新たな機能性として、肝機能保護作用(抗酸化活性)と肝臓中性脂肪低減(NAFLD予防)を見いだすことができた。

3 甘酒の機能性
甘酒には酒粕タイプと、米麹甘酒タイプの2種類あり。今回「米麹甘酒」の美肌効果について紹介する。神戸女学院との共同研究により、米麹甘酒の美肌効果について研究した。四週間摂取で、肌状態(角質水分量、キメ面積等)が向上した。米麹甘酒にはビフィズス菌増殖効果があり腸内細菌叢の改善、貧血の改善などが、美肌効果に繋がったのではないか。

一方、酒粕タイプには、酵母由来成分に加え、米由来の非発酵性のレジスタントスターチ、レジスタントプロテインが含まれ抗肥満、血圧上昇抑制が期待でき、米麹甘酒タイプは美肌効果が期待でき、両者に良いところがある。
身近な発酵食品、発酵副産物にも多くの機能性がある。

質疑応答:
Q:長期飲用の体温上昇の時に被検者の体感があったか。特保や機能性表示食品の成否に体感は非常に重要。
A:アンケートは行っており効果は感じていただいている。
Q:酒粕ペプチドを作る時の酵素は? 蒸米から回収された(加熱処理された)プロラミンは加水分解を受けにくいと記憶しておりましたので興味がある。
A:市販のプロテアーゼを使用。
Q:酒粕ペプチドの抗酸化性と肝機能保護は相関するか。
A:相関すると考えている。肝機能保護として知られているグルタチオンも抗酸化性に起因する。
Q:酒粕中にはGABAは含まれているか。その濃度はどの程度か。機能性関与成分としての報告はないのか。
A:GABAは水溶性で、酒粕の中には多くない。
Q:女子大生を使った試験で、もっと人数を増やしてプラセボも使って本格的な試験を行わなかったのは
A:研究の方向性、共同研究上の理由
Q:ビフィズス菌の増殖効果をみた実験では酸の生成量をマーカとしていたが濁度の変化など微生物数を直接測定されなかったのはなぜか?
A:元々濁りがあり測定できない。
Q:酒粕に含まれるタンパク質として米由来、酵母由来、麹由来の比率はどんなですか?
A:米90%、酵母8%、麹2%程度。酒粕に含まれるのタンパク質は米由来がほとんどである。
Q:原料となる酒粕の種類によって効果の違いはあるか?例えば磨いたお米を使って作った吟醸酒の酒粕はペプチドが少ないので効果が出にくいとかいうことがあるか?
A:吟醸酒粕は米デンプンが多い。タンパク質が多い融米造り酒粕の方がペプチドの調整には収量の観点から適している。
Q酒粕の有効利用の点で一番は酒粕を丸ごと食する形、プロテインバーならぬ酒粕バーのような感じができればいいのですが、ネックは脱アルコール処理かと思う。今回、試験に供した酒粕の脱アルコール処理はどうされたか?
A:タンパク質が多くなるとおいしくなくなる。当研究は洗浄・乾燥過程がありアルコールは除去されている。

以上