2021年 9月 例会 講演会
日時:2021年9月18日(土)14:00~16:50
場所:Webのみの開催と変更になりました
講演1:「地元素材を活用可能な異分野技術を導入した水産加工技術の開発」 -魚醤油製造への醸造技術的アプローチ-
地方独立行政法人 北海道立綜合研究機構 食品加工研究センター 食品開発部 部長 吉川修司氏 (技術士生物工学部門、総合技術監理)
講演要旨:
魚醤油は魚介類と食塩を主原料とする発酵調味料で、日本を含めアジアで広く製造されている。近年、国内需要が増加し、2002年以降1万トンを超える安定した需要がある。しかし、魚醤油には特有の臭いや高塩分など品質上の課題があり、品質のバラつきも多い。そこで演者は、魚醤油製造に醸造技術の導入により品質向上を図り、北海道内各地で様々な魚醤油を製品化してきた。本講演では、着想から技術開発・普及にいたるまでを紹介する。
講演2:「清酒に含まれるオリゴ糖について」
東京農業大学 応用生物科学部醸造学科 准教授 徳岡昌文氏
講演要旨:
清酒は米を原料とする醸造酒であることから、不揮発性成分として糖を最も多く含む。演者らは、長年未解明であった清酒中の重合度4以上のオリゴ糖について、分析法の構築から精製、構造解析、麹菌の遺伝子破壊などを組合わせた研究を進めている。これまでに、重合度6~8の清酒中オリゴ糖が特徴的な分岐構造を持つことを明らかにしているほか、米の分解だけでなく麹菌酵素による糖転移が生成に関わることを見出しており、その研究内容を紹介する。
参加費 会員1000円、非会員3000円
ビデオ視聴は、パスマーケット9月ページで受け付けております。
視聴記
「清酒に含まれるオリゴ糖について」 東京農業大学 応用生物科学部醸造学科 准教授 徳岡昌文氏
清酒は米を原料とする醸造酒であることから、不揮発性成分として糖質を最も多く含んでいる。糖質の中ではグルコースが最も多く、2糖類、3糖類までのことはわかっていた。しかし、清酒中の重合度4以上のオリゴ糖については長年未解明であったので、分析法の構築から精製、構造解析、麹菌の遺伝子破壊などを組み合わせた研究を進めている。
分析機器としては親水性相互作用クロマトグラフィー-飛行時間型質量分析計を用いて、重合度はアミノカラム、異性体はジオールカラムを使用して解析を行っている。これまでに、清酒中に少なくとも重合度2~18のオリゴ糖が存在して、重合度6~8の清酒中オリゴ糖が特徴的な分岐構造を持つことを明らかになった。NMRによる構造解析を行うことで隣接型分岐とイソマルトース型のオリゴ糖が存在することを確認した。
市販の清酒中のオリゴ糖を分析するとDP6-1はばらつきが少なく、DP6-2、DP7-1、DP8-1、DP8-2はばらつきが大きいことが分かった。その理由についてさらに分析を進めたところ、DP6-1は米澱粉が酵素により分解されることで生成し、DP6-2、DP7-1、DP8-1、DP8-2は発酵中に酵素による糖転移で出来ていることも解明された。
さらに、HILIC-TOF/MS解析で確認された2つの未解明の物質を解析したところ、今まで存在は確認されていなかった配糖体のethyl-α-maltoside とethyl-α-isomaltoside であることを突き止めた。
質問
Q1 昔、清酒中にグルコースが多かったのは火入れまでの期間が長かったためではないかと思う。
A1 それもあると思うが、最近はグルコアミラーゼの強い麹を使っているため、あるいは分析方法の進歩も考えられる。
Q2 みりんを分析するとオリゴ糖が多いのではないだろうか。多ければ、みりんの売りになると思う。
A2 是非やってみたい。
Q3 重合度4つ以上のオリゴ糖だと風味はほとんどないと思う。
A3 マスキング効果はあるのではないかと思う。グルコースにもあるかもしれないが、アミン系のマスキング効果はあると想像している。
Q4 澱粉が分解されたオリゴ糖と糖転移で出来たオリゴ糖の割合はどのくらいか。
A4 調べていないが、C13同位体を使って実験すれば、分かると考える。
Q5 オリゴ糖は清酒の風味のふくらみに影響しないか。
A5 風味面での影響は、成分を大量に生成しないと見ることができないので、やっていないが、今後実施してみようと思う。
Q6 機能性を持ったオリゴ糖は見つかっているか。
A6 見つかっていない。
Q7 清酒作りの現場に活かされることは何かわかっているか。
A7 α-グルコシダーゼが弱い麴を使うとわずかではあるが、アルコール生成量が増える。
Q8 糖質ゼロの清酒は、なぜオリゴ糖がほぼDP6-1だけになるのか。
A8 いろいろな酵素で分解しているので、澱粉の分解が進んでいるが、それでもDP-6-1は酵素で分解されないためと考える。
Q9 清酒中のオリゴ糖でマーケティング的に差別化できるか。
A9 機能性を持ったオリゴ糖が見つかればできると思うが、いまは見つかっていない。
Q10 オリゴ糖が何かの風味と引き立たせているということはないか。
A10 そのような視点でやっていないのでわからないが、今後やってみたいと思う。
Q11 オリゴ糖は山廃に多いとか生酛に多いとか傾向はあるか。
A11 調べてみたが、明確な傾向はなかった。
Q12 質量分析の単一ピークでいくつまでであれば異性体を見つけられるか。
A12 質量分析計では分からない。精製してNMRで解析して初めて分かる。
所感
分析によって確認された微量のオリゴ糖や配糖体そのものの風味は官能的には感じられないとのことであったが、発酵によって生成された多くの微量成分が複雑に絡み合い清酒の風味を作り上げていると思わせる内容であった。また、講義を聞きながら、銘柄ごとに微妙に異なる清酒の風味は日本人の繊細な官能力がなければできないとも思った。
今後研究が進み、さらにおいしい清酒や機能性を持った食品ができることを期待したい。