リスク評価(発生確率×影響度)をわかりやすく

跡部技術士事務所(食品開発コンサルタント)

技術士(農業・総合技術監理部門) 跡部昌彦

 大学生に食品の安全性の講義をする中で、リスクマネジメントの考え方の話をしている。リスクマネジメントは、①リスクを発見する、②リスクを分析する、③リスクを評価する、④リスクに対処する、というプロセスに従って行われる。ここで「リスク」とは将来の何れかの時において何か悪い事象が起こる可能性のことであり、いい日本語がないので、そのまま「リスク」と使われているが、あえていうなら「やばさ」である。「塩分の摂りすぎは健康に対するリスクが高い」は「塩分の摂りすぎは健康にとってやばそう」に、「残留農薬は基準値内であればリスクは極めて低い」は、「残留農薬は基準値内であれば、それほどやばくはなさそう」という感じである。

 その「リスク」(やばさ)は、リスク評価において「発生確率×影響度」から判断される。食品の安全性では、食品に含まれる危害要因(ハザード)を摂取した場合、健康への悪影響が発生する確率と、健康への影響度から評価される。例えば、フグの毒は危害要因(ハザード)で、それを食べることで起こる食中毒は、その発生確率と影響度(どれくらの重い症状になるか)からフグ毒のリスクが評価される。

 この話を大学生にしていくのだが、リスク評価の「発生確率×影響度」の考え方をより理解してほしいと思っており、食品以外のいろいろな事例で話をしている。ここでは、その事例を3つ書きたいと思う。

 飛行機事故は悲惨である。墜落すると乗員乗客(例えば400名)の命はほぼ失なわれる。でも、飛行機事故が起こる確率が20年に1回とすると、1年間では20名の死者数となる。一方、自動車事故は頻繁に起こっており、重大な事故は少ないが、それでも年間で3,000名ほどの命が奪われている。この2つの事故を比べると、自動車の方がリスク(やばさ)が大きいことになる。

 新型コロナウイルス感染症をテーマに、その発生確率(感染率)と影響度(感染による重症化度)からリスク(やばさ)を評価してもらっている。発生確率を抑えるには陽性者と接しなければよいのだが、誰が陽性者かわからないので、人との接触を避ける、接触する場合は距離を保つ、マスクをする、うがいや手指消毒を小まめに行うなどの対処となる。一方、影響度を抑えるには食事(栄養バランス)、運動、休養(睡眠)に心がけて健康な体を作っておくことや、ワクチン接種による発症や重症化予防が挙げられる。医療体制の拡充(病床数、医療機器、医療従事者数など)も影響度を抑える策である。ここから、私たちにできることは、とにかく発生確率を抑えることと、ワクチン接種によって影響度を抑えることであることがわかる。発生確率を抑える方法して集団免疫獲得やワクチン接種も考えられるが、これらの実証は先々のことである。

 もっと身近な事例の話もしている。朝、なかなか起きられない人がいるとして、そのリスクを「発生確率×影響度」から評価してみる。発生確率は起きられないのが毎日なのか、週1回か月1回かということであり、その頻度(確率)によって対処方法が異なる。頻度が多ければ、早急に、夜更かしをなくすとか、数多くの目覚まし時計をかけるなどの対処が必要である。でも、1時間目の授業をとっていなければ影響度はゼロかもしれない。あるいは、1時間目の授業が選択科目で、出席を重視せず、期末試験で何とかなるなら影響度は抑えられる。逆に、1時間目の授業が必須科目で、出席重視なら影響度は大きくなるので、発生確率を抑えることで対処せざるを得ない。

 以上のように、リスクを「発生確率×影響度」で評価するというのは、どのようなことにでも使える。リスクは発生確率と影響度の両方を押さえるのが理想なのだが、できない場合は、できる方、どちらかを抑えることで対処できる。皆さんが抱えているリスクを「発生確率×影響度」から評価してみると、その解決方法が見つかるかもしれない。

(食品化学新聞2021.9.23号 掲載)