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機能性表示食品施行から6年を経て

技術士(生物工学部門)卯川 裕一

[株式会社ダイセルヘルスケアSBU事業推進室事業戦略グループ]

 2015年4月に始まった機能性表示食品制度が今年の4月で6年を迎える。商品開発費用の負担軽減や、商品開発から上市までの期間短縮などのメリット面で、国が審査・許可する特定保健用食品より中小企業も活用しやすい制度として注目され今日に至っている。6年を経た今、受理件数は3500件を超え、特定保健用食品の許可件数の3倍以上となっている。2020年はコロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響により、食品関連では外食関連企業を中心に事業者の業績悪化が懸念されたが、健康食品関連事業は巣ごもり需要による健康志向の高まりを受けテレビCMされる商品もみられ、大きな影響は受けていない。

 この6年の間、糖質成分の機能性関与成分への拡大や、機能性関与成分がはっきりしない原料をエキス等で取り扱うなど、制度は少しずつ変化してきている。制度運用開始以降、行政(消費者庁)と業界団体が一丸となって機能性表示食品制度をよりよい制度へ発展していくために話し合いを行いつつ改革を進めた結果、着実によりよい制度に変わってきていると実感している。ここ1年では、事業者責任の届出制度である本来の趣旨に鑑み、新しい機能性表示が相次いで受理された。食品業界では長年の念願であった免疫機能の表示が2020年8月に受理されたのは記憶に新しい。他にも排尿時のわずらわしさの軽減や、顔のむくみ感軽減、血管の柔軟性維持などの表示が受理された。今後もさらに新しい機能性表示が受理され、機能性表示食品市場は益々拡大の一途をたどるのではないかと期待される。

 一方、特定保健用食品は、疾病リスク低減表示の見直しがなされており、消費者庁が主催する特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会が2020年12月に立ち上がり、1月、3月と合わせ3回開催された。特定保健用食品と機能性表示食品の制度上の一番大きな違いは、前者は疾病リスク低減表示が可能であるが、後者はできないことである。特定保健用食品の疾病リスク低減表示は、2005年からカルシウムと葉酸の基準が設定されているが、許可実績はカルシウムのみに留まっており、制度の見直しが行われてこなかった。そこで、海外の実績も踏まえ、専門家の意見を聞きつつ検討が進められている。バイオマーカーと疾病の関係を疾病リスク低減表示に活用するなど、さらなる拡大がなされることが期待されている。

 機能性表示食品に話を戻すと、2020年4月より消費者庁は「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性確保等に関する指針」の運用を開始し、2020年7月には表示対策課に「ヘルスケア表示指導室」を設置した。2021年は、事後チェック指針に基づき、受理後の第三者によるチェック機能がより働くような制度設計に移管していくであろう。そのため、大手企業と中小企業とで、機能性の科学的根拠となる研究レビュー(SR)の質や安全性評価の妥当性などでレベル感が異なってくる可能性も否定できない。レベル格差が広がって大手企業しか活用できない制度となってしまっては、本末転倒であるが、より質の高いエビデンスに基づいた製品の流通が増えることは消費者メリットにもつながるため、このバランスがとても重要になってくると思われる。消費者自身は、消費者庁HPで公開されている情報や、企業の広告に対し、正しく内容を理解し、その真贋を判断する力、いわゆるヘルスリテラシーを身につけていくことが必要であり、アドバイザリースタッフの活用も期待されるところである。

今後、機能性表示食品と特定保健用食品の1年間の売り上げ合計が1兆円を超えるのも時間の問題であり、内訳をみても特定保健用食品がおよそ6000億円で横ばいで推移しているのに対し、機能性表示食品は年々増加してきている。健康の維持増進に寄与する食品として、ウィズコロナ、新しい生活様式の中でも確実に機能性表示食品は活用されていくであろう。時代を先取りした商品開発が企業には求められ、消費者にはヘルスリテラシーの向上、行政には健康施策への活用が求められる。

(食品化学新聞2021.4.01号 掲載)