総称に惑わされないように

技術士(化学・農業部門、総合技術監理)  東剛己  

打ち合わせをしていたスタッフたちの会話が耳に入った。

「カテキンって、ポリフェノールなの?」

 会話の背景は単純で、健康素材を用いた製品アイディアについて話していたようだ。カテキンはお茶の健康成分として知られる。かたやポリフェノールはチョコレートやワインの健康成分として有名だ。

 この妙な会話に口を挟みたいとも考えたが、その場にいたスタッフが「そうだよ」とだけ説明し、何ごともなく話は進んだ。ポリフェノールが何たるか、など、議題に無関係なのだから仕方がない。

 ポリフェノールというのは総称である。名前もポリ+フェノールなので、フェノール骨格が複数つながっていることがわかる。カテキンも狭義では物質名だが、カテキン類としてはいくつかの物質の総称として使われる。ポリフェノールはかなり大きな概念で、カテキン類はすっぽり含まれる。

 ただ、多くの人はその名称が物質名なのか総称なのかを気にしないだろう。カテキンはカテキンであり、ポリフェノールはポリフェノールである。意地悪で「エピカテキンは?」なんて言えば、多分カテキンとは別の物質と思い込むだろう。

 別の機会だったが、ビタミンEとトコフェロールが別のものだと思っている人もいた。ビタミンEが総称で、トコフェロール類4種とトコトリエノール類4種が含まれる。単に「トコフェロール」と説明されているのなら、たぶんα-トコフェロールかミックストコフェロール(α-からδ-までの4つのトコフェロールが混ざっている)のことだろう。

 他によく聞く言葉としては、カロテノイド、フラボノイド、アルカロイドのような-oidがつく言葉がある。-oidは「のようなもの」と言う意味だから、分かる人にはすぐに総称と理解できる。β-カロテンがカロテノイドの一つだと言えば、なるほどと理解されるが、健康素材のルテインがカロテノイドだというのは、なかなかわかりにくい。ちなみにフラボノイドはカテキン類を含み、全てのフラボノイドがポリフェノールに含まれる。

 このように総称の方で説明されている場合は注意が必要である。例えば「ポリフェノールは体に良い」と言われても、ポリフェノールは種類が多すぎて本当に全てのポリフェノールが体に良いか分からない。「カロテノイドは色素である」と書かれていても、カロテノイドの一種であるフィトエンは無色だ。「○○はアルカロイドという毒性分が含まれ~」とあるとアルカロイドは全て毒のように思えるが、全てのアルカロイドに毒性があるわけではない(初期は強い生物活性を有する化合物群と言う定義もあった)。

 食物繊維、オリゴ糖、ペプチド、乳酸菌などももちろん総称。全てに同じ機能性があるわけではない。傾向はあるだろうが、含まれている物質の特徴は大いに異なる。オリゴ糖なら何でも虫歯予防になるわけじゃないし、乳酸菌ならどれでも整腸機能に優れているわけではない。

 悪者とされている方ではトランス脂肪酸も総称。未だに体に悪いとされている物質の特定には至っていない。少なくとも共役タイプのトランス脂肪酸は体に悪くないようだ。取り過ぎない方が良いと近年騒がれている炭水化物も当然だが総称。食物繊維が炭水化物であることを理解しているだろうか。

 アミノ酸や酵素も総称だと知っているはずだ。学校で習っている。にもかかわらず「アミノパワーで美しく」とか「酵素の力で健康に」といった言葉がすんなり通る。どんなアミノ酸か、どんな酵素かなどは、パッケージや宣伝文句を読めばたいてい書いてあるが、飾り文句に総称を使っているので、あたかもどんなアミノ酸でもどんな酵素でも良いと勘違いさせられる。特に酵素は種類も機能も多種多様すぎて、総称で健康を謳っても説明にならないと思うのだが。

 物質の総称はかなり大きな概念を表すものから、比較的小集団を示しているものまでいろいろある。さらに単に構造の類似性から名付けられただけの総称もあれば、ある一定の機能を持つものに付けられた総称もある。ある程度意識していないと表示にだまされることになる。

(食品化学新聞 2021.3.04号掲載)