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「内部監査の価値を高めるために」

氏名 技術士(生物工学部門・総合技術監理部門)田村 巧

所属 合同酒精(株)酵素医薬品工場

やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」とは有名な山本五十六のことばである。これには多くの人が共感し、語り継がれている。ほめることで人を動かす。ただし、これを「言うは易し 行うは難し」と感じている人もまた多いであろう。とかく人のあらは見えやすく、良いところには気づかないものである。ただ、人のことをほめなくても目立った不都合は生じない。だからほめるという行為は、意識しなければできないことかもしれない。

  • 内部監査を有意義にするポイント

品質マネジメントシステムISO9001、環境マネジメントシステムISO14001、食品安全マネジメントシステムISO22001など、自社のマネジメントシステムをISO規格に沿って運営している場合は、社員同士が監査しあう「内部監査」を定期的に実施する必要がある。その方法は「JIS Q 19011(ISO 19011)マネジメントシステム監査のための指針」に詳しくまとめられている。ここには監査の原則として、監査員に求められる資質が7つ挙げられている。それは①高潔さ、②公正な報告、③専門家としての正当な注意、④機密保持、⑤独立性、⑥証拠に基づくアプローチ、⑦リスクに基づくアプローチである(JIS Q 19011:2019)。これらは内部監査を機能させるために望まれることであるが、さらに、内部監査を有意義なものにするうえで大切なポイントがある。それは「いかにほめるか」を意識することだ。

  • 内部監査と認証機関審査の違い

監査する側が外部の審査機関か内部の同僚かによって、監査を受ける側の心構えが変わる。指摘を受け容れやすいのは、外部審査だろう。組織の外側からの見え方に対しては、対応の必要性を強く感じやすい。一方、同僚による指摘には反発する気持ちが強くなりがちである。仮に指摘が厳しければ、良好な関係も崩れてしまう恐れすらある。だから、指摘する側も仲間に対しては寛容になる傾向がある。これこそが内部監査を形骸化させる大きな要因である。

  • 指摘よりも多くほめてみよう

誰しもほめられて悪い気はしない。内部監査でも、一つ指摘するために、例えば三つほめるように心がけてみよう。「この監査員は三つもほめてくれたのだから、指摘の一つぐらいすぐに改善しよう」と、改善への心構えが軽くなる。内部監査では「やらされる」という感覚の指摘対応ではなく、改善の必要性を納得してもらうこと、さらに自発的な改善につなげることを目指して、監査の有効性を高めたい。

  • グッドポイントは何でも構わない

内部監査は実際の生産活動が自社のマネジメントシステムで決められたことがその通りに実践されているかを確認する作業である。したがって、規定と活動に差異がある場合には指摘事項となる。だから指摘事項が挙げやすいしくみである一方で、監査員が良い点、いわゆるグッドポイントに気付くには、それなりに意識する必要があるだろう。例えば、自らの作業の品質を上げるために新しい試みを始めたら、結果如何によらず、前向きな思考としてグッドポイントになる。そのような取り組みが見つからずに監査が終わりそうな時でも、「不適合」がなかったことをグッドポイントとするのでもいいだろう。そのほかにも監査を受ける態度が潔いこと、記録の筆記が丁寧であることなど、些細なことでも構わない。ほめる側の想像以上に、ほめられた側はうれしいものである。監査員には、監査を受ける側を思いやる気遣いが大切である。

  • 報告様式に組み込む

私が実際に内部監査員として監査したとき、使用している「内部監査結果報告書」の様式に、グッドポイントの欄がないことに気が付いた。内部監査報告書の記録様式にグッドポイント、評価できる点などの記載欄を作ることは、大きな効果が期待できる。ところが、インターネット等で見ることができる内部監査結果報告書の様式例をいくつか見てもグッドポイントを重視して記入欄を上段に作った様式はごくわずかであった。積極的にグッドポイントを記入できる様式を作成することをお勧めする。

  • ほめてやらねば 人は動かじ

内部監査は不足部分を指摘し、改善を促すことが最重要である。グッドポイントはその指摘を受け容れやすくするための工夫の一つである。あらためて思い出したい「ほめてやらねば 人は動かじ」。

(食品化学新聞2021.5.20号 掲載)