毎月の講演会は、会員以外でも参加して聞くことができます。ご活用ください。

アイデア発想法 ―MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)

跡部技術士事務所(食品開発コンサルタント)

技術士(農業・総合技術監理部門) 跡部昌彦

 2020年6月11日発行の本ページで、アイデア発想法のひとつとして「ブレインライティング」を紹介した。今回はMECE(”Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive”の略で、「ミーシー」と発音)を紹介する。「モレなく、ダブりなく」という思考法である。ロジカルシンキング(論理的思考力)で使われるビジネスフレームワークのひとつでもある。

 ものを考えるときに、大きなテーマだと考えにくいし、アイデアに漏れが出てくる可能性があるし、逆に似たようなところでアイデアを出してしまうこともある。だとしたら、大きなテーマを幾つかの小さなテーマに分け、その小テーマのひとつずつについて発想していくと考えやすいし、漏れやダブりもなくなるのである。問題は、大きなテーマを、どう小さなテーマに分けるかである。

 野菜をMECEで考えてみる。すべての野菜が必ずどこかに1カ所に入り、2カ所以上には入らないように分けるのである。野菜は、植物分類での被子植物の中の双子葉植物離弁花類と合弁花類、単子葉植物、それにシダ植物および真菌植物の中に位置づけられ、さらに仲間ごとに「目」、「科」、「属」の順で分類され、ひとつの「種」となる。このような植物学による分類を使えば確実であるが、食品を考える時には役立ちそうにない。他に、食べる野菜の部位による「果菜類」、「葉菜(葉茎菜)類」、「根菜類」という分け方、厚生労働省の基準による「緑黄色野菜」、「淡色野菜」という分け方もあり、MECEとなりそうである。しかし、野菜を「赤色」、「白色」、「緑色」などの色で分けようとすると、野菜の色は多様だし、ピーマンにはいろいろな色があるので、どの色に分ければよいかわからなくなるなど、MECEは難しそうである。

 いろいろなもの、例えば、乗り物、スポーツ、食品メーカー、清涼飲料水、冷凍食品などを、どうMECEで分けるかを考えるのは、論理性を高めるためのよい訓練になる。分け方には、野菜の例で記したように、全体を構成要素に分解して考えるという方法の他、変数に分解して考える(売上を単価と数量に分けるなど)、プロセスや時系列で考える(営業活動を訪問準備、訪問、訪問後フォローに分けるなど)などの方法もある

 さて、カップラーメンの商品開発アイデアを発想するために、その要素をMECEで分けてみたい。中身は「麺」、「スープ」、「具材」に分けられる。「容器」、「容量」、「調理方法」、「保存方法」でも分類できる。他にも販売価格から「高額商品」や「廉価商品」という分け方や、ターゲットから「男性向け」と「女性向け」、対象年齢で「20歳代向け」や「30~40歳代向け」など、地域で「関東地方」や「関西地方」などという分け方がある。シーンから「朝食向け」や「夜食に向け」などの分け方もできる。これらをマトリックスにし、例えば「関東地方の20歳代の女性が朝に食する高額カップラーメンのスープはどんなものがよいか」というアイデアを出していくのである。「カップラーメンの商品開発アイデアを出しましょう」というのでは、冒頭に記したように、考えにくいし、アイデアに漏れが出てくる可能性があるし、逆に似たようなところでアイデアを出してしまうこともある。そこで、この大きなテーマを幾つかの小さなテーマに分け、その小テーマのひとつずつについて考えいけば考えやすくなる。ここで問題なのは、分け方に漏れがあれば、そこから漏れたところのアイデアは出ないし、ダブりがあれば無駄になるので、MECEで確実で分類しておくことが重要になる。ダブりよりも漏れの方が問題なのは言うまでもない。

 MECEは全体を分けるという考え方であるが、全体像を見極める方法でもある。前述の例から、MECEをすることによって、カップラーメンの全体像、必要要素がわかるのである。

 ………………………

 専門は食品の研究開発で、商品開発、食品加工技術、食品素材開発、食品機能研究、おいしさ評価、設計品質管理、研究開発マネジメントなど。

(食品化学新聞 2021.5.13号 掲載)