仕事を終えた田んぼ妄想
技術士(農業部門) 江川和徳
[江川技術士事務所]
越後平野を見渡せる高台から黒々と仕事を終えた田んぼが、いつとはなしに飛来した白鳥を抱きながら眠りに入った。今年の作況は100越えのようで頑張ったと労をねぎらいたい。メディカルライス協会理事長渡辺昌氏は精米工業会誌に米食国はコロナ感染率が低いことを統計的に示し、日本の感染者数の少ない理由ファクターXは米と推察している。米食は腸内細菌を活性化しそれが自然免疫を高め感染低下に役だっていると結論している。逆に、小麦を摂取する国は摂取量の多い国ほど感染率が高いことも併せ示され同じイネ科の米と麦でコロナ感染性が真逆の結果となっている。そこから妄想を膨らませてゆく。
1米と麦の感染性の差異妄想
米が感染率を低下させる大きな理由が米の腸内細菌相の活性化で有るとのこと、青柳誠一氏は醸造協会誌に米糠、小麦ふすま、大麦糠、ハト麦糠のヘミセルロースを用い4種のビフィズス菌の生育性を比較し米糠のみが4種のビフィズス菌全ての増殖活性を示し、ふすまは種により-、±、+と分かれ、大麦、ハト麦はすべて-を報告している。これはビフィズス菌だけであるが米が腸内細菌の活性化に有効の感じは伺われる。微生物は全体に親水性の素材とは親和を示し疎水性の素材には馴染みずらいとすると水田で育つ稲と畑で育つ麦の間に親水性、疎水性の違いが生じ親水性の米は腸内細菌を活性化するという一つの解釈が成り立つのでは?と妄想が始まる。澱粉や繊維の素材、糖はOHの親水部とCHの疎水部からなっている。米はご飯からお粥、重湯といくらでも延ばせ、米麺は茹でて放置すると糊が付着水に滲出し麺線付着を起こしやすいが小麦麺は伸びても麺線の付着はない。明らかに澱粉に親水性と疎水性の特性差が出ていると更に妄想は進む。米粉の揚げ物は小麦粉に比し吸油性が低いが、これは米が親水性で油をはじくせいと一段と妄想が進む。更に、親水性の素材は食しても殺菌性の高い疎水性の胆汁を吸着せず大腸に胆汁を運ばないため腸内細菌にやさしいと妄想はとめどなく広がる。食も1975年代の和食がベストといわれているが米からのカロリーが70%弱、蛋白が20%、脂肪が10%というバランスで米以外の所謂副食に使われる素材は30種類以上あったともいわれている。正確ではないと思うが腸内細菌の70%以上は桿菌,30%弱が球菌とすると桿菌は親水性に球菌は疎水的素材にも馴染やすいと考えるとベストの和食と腸内細菌のバランスも符丁すると感じる。次の試験が米粉の親水性・疎水性を示すか異論はあろうが論を進める。米粉にグルカノトランスフェラーゼを添加してアミログラフをかけると最高粘性は消失するが冷却粘性は出る。この現象から最高粘性部分は酵素アタックを受ける親水性的澱粉部分を反映し、冷却粘性部分は疎水性的部分を反映していると推察した。澱粉の中に親水・疎水の2区分が混在し老化は疎水性的部分から離水して始まると考えられる。更に、親水的か疎水的かを簡単に見分ける方法について、試にアルコール可溶のターメリックを疎水性色素としてその染色性で米粉と小麦の比較をした結果、小麦が米粉に比し強く染色し疎水的と判断してみたが正しいかは化学知識がなく教えを請いたい。栄養学もエネルギー源としての炭水化物、炭水化物ダイエットもあるが消化に掛るエネルギーが基礎代謝の実に80%に及ぶということであれば少なくとも消化に掛るエネルギーは炭水化物から摂らないとと感じる、タンパク、脂肪、繊維、機能性成分などの前に食素材が親水的か疎水的かを決めることが腸内細菌的に感染防止ひいては健康寿命延伸に重要と妄想するが如何であろうか?
2農産物の生育環境と親水・疎水
水田作物の米と畑作の麦から妄想を進めてきたが、野菜について水耕で育てると親水性に畑作では疎水性になるか?水耕で親水性になれば水耕野菜とファイトケミカルの多い露地野菜を組み合わせて消費者個々の体調体質に合わせた最善の組み合わせ食を提供できないか?試験を進めてみたいと思うが栄養学に造詣の無い、高齢技術屋の冷や水であろうか?
(食品化学新聞2021.6.10号 掲載)