男の手料理

 技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所]

 10年ほど前、食品会社を卒業して技術士事務所を開設した。少しずつ仕事が増えてきたが、在宅のことが多い。それまで、「男子厨房に入るべからず」で、ほとんど台所に立った経験はなかった。妻が料理上手で、毎食手際よく準備してくれたため、必要がなかったのである。

 当時から妻はパート勤務だが、勤務先が近いため昼食は家に帰って摂る。この状態で、昼食を作ってもらうわけにはいかない。何とかなるだろうと、台所に立つことになった。そうはいっても、複雑な料理は無理である。野菜や食肉を刻んで・炒めて、即席麺や乾麺に添えるというレベルからスタートした。

 作っていると、少し欲が出てくる。好きな麺料理は味噌ラーメンである。贔屓にしている北海道ラーメン店があり、その味に近づけたいという気持ちがあった。いくつかのメーカーを試した。その結果、某メーカー生麺のスープにおろしショウガを適量加えることでかなり近づけることができた。具材はひき肉とモヤシを炒め、最後にコーンをトッピングした。バターを添えると更によくなった。

ある時、「硬焼きそば」を購入・調理して、おいしく味わうことがあった。揚げた麺の「パリポリ」感と上にかける餡のマッチングが気に入った。餡は添付の粉末を用いたが、中身は中華系調味料とくず粉に違いない。餡を自作できれば、柔らかい餡かけ焼きそばが作れるし、ご飯にかければ中華丼になる。

そこで、挑戦してみた。要点は塩味なので、用心しながら中華系調味料の量を決めて記録した。くず粉も様子を見ながら加えるが、適度な粘りが出たところで添加終了。ご飯にかけて食べると、合格点である。千切りトウガラシを加えるとさらに良くなった。妻もおいしいと言ってくれた。そうであれば、具材にもこだわりたい。

野菜や食肉以外に、ミニコーンやウズラ卵・キクラゲ・シーフードミックスを加えた。中華味でなく、醤油系のめんつゆで塩味を整えることも行った。いずれもおいしくいただいた。ただし、具材のこだわりは長続きしなかった。キクラゲは乾物、シーフードは冷凍なので問題ない。ミニコーンやウズラ卵は保存が難しく、割高なのだ。ミニコーンはあきらめ、ウズラ卵は鶏卵に替えて一段落である。

 チャーハンにも挑戦した。市販の「チャーハンの素」を用いれば、合格レベルの味になる。それでも、なにか物足りない。某中華系チェーン店のチャーハンが気に入っていたが、味のコク・深みが乏しいのである。試行錯誤の末、ラードに気が付いた。使ってみると、よしと言えるレベルになった。

 中華丼やチャーハンの利点として、冷蔵庫にある残り物を利用できる点が評価できる。食品ロス削減に役立つのである。前者の場合、水分が多いトマトやキュウリといった食材でも利用できる。チャーハンであっても、手間はかかるが餡かけにすれば利用可能である。

 さて、わが家では豚カツが好物で、しばしば食卓に上がる。冷凍品を使うこともあるが、薄い豚肉も用いて自作することもある。筆者はこれが特に好きである。肉厚のものより、パン粉の食感が好ましいためである。通常、大量に揚げることが多い。翌朝、カツサンドにして、昼食にカツ丼にするのである。

カツ丼は砂糖を加えたストレート麺つゆで玉ネギとカツを煮る。つゆが絡んだ状態で溶き卵をかけて、蓋をする。その後、残しておいた溶き卵をかけて、再度蓋をして蒸らす。溶き卵が一部生状態であることが好ましい。刻んだミツバを散らして、ご飯の上に移せば完成である。近年、かつ家と松乃屋が豚カツ関連で頑張っている。双方のカツ丼がおいしく、リーズナブルである。これらには及ばないが、おいしいといえるレベルになった。

 要領よく仕事が進められるようになると、油断を生じるものである。急いで作業していた時、包丁で指を切った。外科医院に駆け込み、処置をしてもらった。縫うほどの傷ではなかったが、しばらくは不便な日々を過ごしたものだ。それ以後、包丁の扱いは慎重になったものだ。

 料理をしていると、食品会社の研究所時代のことを思い出す。試薬を揃えていくつかの溶液などを準備する。日持ちするものは多めに作る。用いる器具類も同様である。実験を行った後、試薬関連は適切に廃棄する。器具類も次回に備え、洗浄して乾燥させる。料理も同じだが、主に食材や調味料の確保に配慮している。食器の後片付けは洗浄機があるので、苦労はない。

工夫して、料理がおいしくなれば嬉しい。この頃は、もう少しレベルの高い料理にチャレンジしたいと思っている。

以上

(食品化学新聞2021.8.26号 掲載)