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食品コンサルタントと環境

 技術士 農業部門(食品製造)江本三男 

日本食品技術株式会社

はじめに

 食品企業で商品開発を長年担当していると,市場と商品情報をいかに入手するかが重要であることを実感している。最近は,ネットによる情報検索で多くの重要な情報を入手することが可能となっている。とはいえ,実際の商品を目で見て,手に取って,表示内容を確認して,商品の棚取を確認して,購入して,試食までしないとその商品を完全に理解したとは言えない。さらに、その情報をコンサルタントとして自信をもって発信することにならない。そこで本稿においてコンサルティングの環境について状況報告する。

情報調査の環境

 10数年前に,ある開発担当者から「東京でセンスの良い商品ディスプレーを見るなら玉川高島屋に行ってみるべきだ」と聞いてすぐに現場を訪問した。同百貨店は,現在は開業50数年を超えているが有名ブランドの出店企業が多く参考になることが多かった。その後に最寄り駅の二子玉川の近くに住居を,高い家賃を覚悟で構えることを決めて,情報収集の拠点にすることにした。最近では、近所のコンビニエンスストアー,スパーマーケット,デパートを徒歩で回遊できる範囲を散歩と兼ねて市場調査を行っている。古来、多くの思想家が散歩を習慣として思索を行うと聞いているが,歩くことで体調管理もでき新しい商品のアイデアも浮かんでくるものである。何より興味のある食品のディスプレーを楽しみながら歩けば飽きることもない。さらに,顧問契約会社から開発テーマを示された場合に即座に対象商品を入手して発送したり,直近の開発会議で試食をしながらプレゼンしたりすることが可能となった。

ネット情報

 食品の開発業務でネットの情報は欠くことのできないものであり,膨大な過去の状況や最新の情報も一瞬にして検索を完了できるのは周知であり,情報をビジネスとする者にとってはありがたいことと思う。さらに,ユーチューブ等の動画情報によって,ある程度まとまった情報の入手が可能となった。著者も,行きがかりで自ら動画に出演することになり貴重な経験とともに、自己の業務をアピールする手段を得ることができた。留意することは、ネットで入手できる情報が必ずしも正しいものばかりではないこと,公表する場合に著作権に抵触しないようの留意することであろう。特に著作権については,出展が明確な政府広報や業界団体の情報は,まとまりもよく信憑性もあり報告書作成に重宝している。さらに,市場の商品売り上げランキング等も発表されており,近未来の予測の重要な判断材料になっている。このようなネット情報を収集把握したうえで,販売店の店頭ディスプレーを見るとより具体的なイメージとして脳裏に記憶されることになる。

情報の価値と顧問契約

 従来のコンサルタントの環境として,情報に対する対価が低いことが指摘される。この傾向は,特に食品業界において顕著ではないか。近年は自称コンサルタントが多くなって提供情報に対しての顧客による評価が厳しくなっていると感じる。さらに,過去の人脈や業務経験に基づく情報の内容が厳しく問われている。コンサルタントとしての評価も商品の評価と同様に,ネット情報が重視されているようで,初回面談でもほぼ対象人物として情報は把握されており,意思疎通と人物の評価判断が素早くできる。著者の顧問契約先のなかで最近急成長した若いメンバーばかりの企業では,面談中にもパソコンで関連情報を検索しながら即決で判断がくだされている。従って,コンサルティングではネット掲載情報はもちろんであるが,独自情報も提供できるようにしなければならない。この意味で,著者の実行しているように市場や店舗の近くに居住して,日常的に商品ディスプレーをチェックすることが重要であると感じる。

むすび

 食品の商品開発の支援を担当するエンジニアとして,市場の状況を把握しておくことは必須の条件である。食品という消費者の日常に直結した商品は,その開発プロセスにおいて現物(商品または試作品)を提示して具体的な評価をすることが重要であり,それが可能な業務である。最近のネット情報の充実により,ロケーションにこだわらず自宅でパソコンにより市場情報を入手して開発業務に利用することが可能である。しかし,重要な最後の決め手として,開発依頼者への説得力を高めるための現物によるプレゼンが必要である。そのための,開発業務の環境について自説を記述した。

調査会社

 個人のコンサルタントとして業界の調査業を担当することが多いが、別に調査会社と契約して、チームを組んで調査業務をすることもある。この場合は、費用も予算も大きく調査対象企業も大企業が多く業務内容も複雑になる。コンサルティングの業務全般を把握するには、良い経験となることが多い。この場合には、業務報酬が確約されることがおおいのであるが、高額の報酬は望めない。

 とはいえ、コンサルタントは、信用第一であり、顧客との人間関係が重要となり、自身の人間性の磨くことが重要となる。

(食品化学新聞2022. 4.21号 掲載)